俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
第二章 負けるもんか!
第二章 負けるもんか!
そんな私だったが……気合はみごと空回りしていた。
リッチモンドでの一週間の短い引継ぎを終え、緊張した面持ちでヘイムダルホテルで働き始めたのは一ヵ月前。
今年は夏が長く、十月中旬になってやっと秋めいてきた。
私は受付に立ちインカムから聞こえてくる上司の言葉に「あぁ、またやってしまった」と顔をゆがめる。
『この業界、偶数は不吉なの。そんなこともわからないの?』
「すみません」
面目ない。言い訳のできない失敗ばかりが続く。先ほど式場見学にきたカップルに出したクッキーが二枚ずつだった。
今日のお客様は気にしないタイプの方で事なきを得たが、いつもそうとは限らない。ひとつの小さなミスが、不信感につながる。
人生の大きな節目となる結婚式だ。
そんな日を任せてもらう自分たちとお客様の間に大切なのは信頼関係だと、ここで働き始めて口を酸っぱくして指導されてきた。
今日予定のお客様がすべて帰り、サロンを綺麗に片付けていく。
一番下っ端の私の仕事だが、そうすることでお客様の流れや、椅子の位置など確認することができる。
失敗するのは――いや、もちろんしないにこしたことはないが――仕方がないにしても、同じ失敗はしないと決めている。
……とはいえ、次から次へとだもんな。
リッチロンドではエリアマネージャーを務め数店舗管理していた。接客には自信があったのにそれも打ち砕かれた。
所詮井の中の蛙だったのだと思うが、へこんだままでいられない。なにせ御杖部長に大口をたたいてここで働いているのだから。
片付けを終えて事務所に戻る。
「おつかれさまです」
「おつかれさま、飛鳥さんちょっといいかしら?」
「……はい」
私を呼んだのは、所属する第一グループの課長である天川(あまかわ)りえさん。急いで彼女のデスクまでいく。