俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 さっそく飲んだコーヒーはほんのり甘く、私は頬を緩ませた。

――しかし。

 人間やればできる。努力は実る。継続は力なり。

 そんな言葉がそらぞらしく感じるほど、私は自分の不甲斐なさに打ちひしがれていた。

 早番だった私は、タイムカードを切りデスクに座っていた。他のスタッフは平日の夕方に珍しくはいった結婚式であわただしくしている。

 そんななか私はひとりで事務所のパソコンを眺めていた。

 大きなため息と一緒に見ているのは、このブライダルサロンの口コミだ。

【チャペルもバンケットも最高。ただスタッフが心もとない】

 書き込まれた日付から見て、これが自分のことだというのがわかる。

【ひとり慣れていないスタッフがいて、こちらがとまどってしまった。フェアならば我慢できるが、本番だと困る】

 これも明らかに、私だ。フェアの流れを聞かれた際に渡したリーフレットが、実はひとつ前のものだった。

 すぐに気が付いて差し替えたが、結婚式は一生に一度だ。小さな失敗がずっと心に残る。

「はぁ。何でできないんだろう」

 もっと自分はできるはずだ。ずっとそう思っていたけれど、いままでとの勝手の違いにまだ慣れずにいる。

 香芝さんは「まだ来たばかりじゃないですか」と言ってくれるが、お客様からみれば新人もベテランも関係ない。

 ふと事務所の隅に積まれている、段ボールに目をやる。


それは私が事前に変更があったのに気が付かずに注文した引き出物だ。

 天川課長がフェアで顧客にプレゼントするから大丈夫だと言ってくれたが、こんなミスあり得ない。

 たしかに接客の面では、経験が生かされている場面もある。実際に天川さんや香芝さんに「助かった」と言われたこともある。

 しかしそれだけでは、ウエディングプランナーとして使いモノにはならない。しかし現状の私はアシスタントの仕事すらままならない。

 新郎新婦やその家族がどんな思いで式の準備をしているのか、これまでわかっていなかった。そう思えば、慶と吉野さんの式でのふるまいについて後悔した。

 あのときは堪忍袋の尾がきれちゃったんだもの。

「はぁ、へこむ」

 デスクに突っ伏して、もしかして私はこの仕事に向いていないのかもしれないと思う。

 もう一度ため息をつきそうになったとき、ぽかんと頭に何かが当たった。

「いたっ」

「下っ端がなにいっちょ前にため息をついているんだ?」
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