俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
「あの、すみません。御杖事業部長と約束しているんですが」
「はい」
事務所戻る途中で呼び止められた。振り向くと背の高いイケメンが名刺を差し出している。
「リンクスの野迫川(のせがわ)社長……リンクスってあの!」
「そう、皆さんご存じ結婚相談所のリンクスです」
にっこりと微笑んだ野迫川社長は眩しいくらいに輝いていて、なんだか御利益がありそうだ。
リンクスは大手の結婚相談所だ。ヘイムダルホテルのブライダル事業部と提携して婚活パーティを開催している。
そこで成立したカップルは、挙式披露宴が割引になるという特典付きだ。ハイクラスの顧客が多く、人気の結婚相談所だと記憶している。
「あ、ご案内します」
私が歩き始めると、野迫川社長は親しげに話しかけてきた。
「君見ない顔だね、新入社員?」
「はい、出向で二ヵ月前からお世話になっています」
事業部長室をノックするが不在だ。そのとき野迫川社長のスマートフォンが鳴った。
「はいはーい。今、飛鳥さんって子に案内してもらってるけど、お前いないじゃん」
なんて軽いんだろう。ちょっと驚きながら見ていると、すぐに電話を私に差し出した。
《御杖だが本店で打ち合わせが長引いてそちらに戻るのが少し遅くなった。中で待ってもらってくれ》
「はい、わかりました」
本店というのはヘイムダルホテル宿泊事業のことだ。御杖部長はブライダル事業部と共に本社の経営戦略室の室長も兼ねている。むしろそちらの仕事がメインと言ったほうがいい。
「野迫川社長、中でお待ちくださいとのことですのでどうぞ」
中に入ってソファを勧める前に、慣れた様子で座り、私においでおいでと手招きで呼び寄せた。そしてバッグの中からパンフレットと申込書を取り出した。
「君、指輪してないみたいだから、独身だよね? うちに入会しない?」
「結構です」
仮にも取引先に、あまりにも愛想もなにもない断り方をしてしまったと思う。
「いえ、あの……すみません、急だったもので失礼な言い方になってしまいました」
「あはは、君、面白いね。ごめん、彼氏がいるよね」
「いえ、あのそういうことではないんですけど」
「いないの? うそ、マジで」
「はい、それはそうなんですけど」
話を進めたいのに、いちいちペースを乱されて肝心な話ができない。
「え、彼氏がいないならさ。今度食事でも行こう? 僕、君に興味でちゃった」
「はぁ……あのですね」
なんと軽いノリだろう、やんわりと断ろうと口を開いた瞬間部屋の扉が勢いよく開いた。