俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
「あんなさらし者にされたのに?」

 どうやら結婚式の参加者のようで、このブーケが私のもとにやってきた経緯を知っているようだ。

「そうだとしても! この花にまで悲しい思いをさせたくないって思ったの」

 このブーケを捨ててしまったら、自分のことが嫌いになりそうだった。今日自分がやったことを後悔はしていないが、正しい行いだとは思っていない。

 だからこそたとえそれがどんなものであったとしても、罪のないものに八つ当たりをしたくなかった。

「なるほどな、面白い。これからの予定は?」

 どう考えても暗い気持ちになる結婚式の後に予定なんて入れるはずない。

「帰ってビール飲んで寝るだけ」

 素直にそう答えた。

「だったら、その時間俺にくれないか?」

「はぁ?」

 胡散臭いと思いながら男の顔を見る。しかし未央奈の非難めいた視線を浴びて男はなお笑みを深めた。

「ひとりで飲むより、いいだろ。来いよ」

 男は私が〝行く〟も〝行かない〟とも答えていないのに、さっさと歩き出してしまった。

 そのままにしておくわけにもいかず気がつけば彼の後を追っていた。

 エレベーターに乗せられて連れてこられたのは、最上階のオーセンティックバー。

 中に入るとカウンター席とテーブル席があり、男性がカウンターに座ったのを見て隣に座った。

 カウンター正面にはバックライトでてらされた棚にずらっと色とりどりの酒瓶が並んでいる。どれもあまり馴染みのないものだ。

 カウンターは飴色に輝いており、もちろんコップの跡なんてものはひとつも見当たらない。

 じっくり店内を見回していると、すっと五十代くらいの白髪のバーテンダーがふたりの前にやってきた。

「俺は、いつもの。君はどうする? ビール?」

 彼のなじみの店らしく、慣れた様子で早速注文をした。

「いえ、せっかくなので何かおすすめを」

 バーテンダーに視線を送ると、すっと目の前に立った。

「どういったものがお好みですか?」

「ん……と、少し酔いたい気分なのでアルコール度数は高めで、さっぱりしたものがいいです」

 好みを告げると、バーテンダーは連れの男に〝大丈夫か?〟という意図を込めた視線を向けた。きっと私が酔いつぶれるのではないかと心配しているのだろう。

「問題ない、作ってやって」

「かしこまりました」

 一礼してその場を去ったあと、早速シェイカーを手にした。
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