俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる～偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました～

　その様子をふたりは言葉を交わさずに、ただ黙って見ていた。

　そう時間を置かずにふたりの前にグラスが並ぶ。男性の前に置かれたのは琥珀色の液体。おそらくブランデーだろう。

「こちらは、〝ホワイト・レディ〟になります」

「なるほど、な。まぁ、ある意味そうかもな」

　隣の男性が、意味ありげにくくっと笑う。バーテンダーはさっとその場を辞し別の客のもとに向かう。

「何が、なるほどなんですか？」

「このカクテルの意味は〝純心〟。ピュアな心」

「あはは、残念だけど私にはまったく合わないカクテルですね」

　純心な心の持ち主が、同僚の結婚式をぶち壊すなんてありえない。

　自虐的な笑みを浮かべ、真っ白い液体の入ったカクテルグラスのステムに手をかけた。

「そう、俺にはぴったりだと思うけど」

　男が意味ありげな視線で「どうぞ」と言い、ロックグラスに口をつける。

　それを見た私も、一口飲んだ。レモンのさわやかさの中に甘さも感じられる。

「美味しい」

「それはよかった」

　男はグラスにつけた唇をわずかに持ち上げて笑った。

「それで気持ちよく酔えそうか？」

　グラスを置くと、男は私の顔を覗き込む。

「どうだろう。あの……知ってるんですよね。今日のこと」

「あぁ、あんな愉快な結婚式ははじめてだ」

「人の不幸を……でも、まあ。面白がってくれる人がいるほうがまだいいか」

　本来ならばひとりでやけ酒を煽っているはずのこの時間に、ウィスキーの似合ういい男が隣にいる。

　今はたとえ行きずりだとしても彼がいてくれることをありがたいと思う。

「かっこよかった。思わず口笛を吹きそうになるくらいには」

「そんないいもんじゃないですよ、実際は」

「俺に話してみる？」

「名前をも知らない相手に？」

「俺は、御杖大輝（みつえたいき）。これでいい？」

　さらっと答えた彼は、ニコッと笑って見せた。その軽い感じに思わずつられて笑ってしまう。

「十分ですね。私は飛鳥未央奈よ」

　初対面の相手に話すようなことではない。けれどふたりの間に特別話題があるわけではないし――それに誰かに思い切り心の内を聞いてもらいたかった。

　大きく息を吐いてから、今日にいたるまでの話を彼に聞かせた。