俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 目の前に差し出された二杯目のホワイト・レディに手をかけてぐいっといきそうになったのをあらためてゆっくり味わった。

 やけ酒にするにはいいお酒すぎる。味わって飲まないともったいない。

「そんなこと言われたらどれくらいかわいいか、見てやろうって参加したらこれですよ」

 隣の椅子に置いてあるブーケにちらっと視線を移した。

「あ~なるほど。それであのマイクパフォーマンスになったわけね」

「私だって別にあんなことするつもりなんてなかったんです。自分のプライドだけで今日の式に参加したんで。でも自分だけ我慢し続けるのがバカらしくなって……それで、それで、全部ばらしちゃった」

 ばらしたと言っても社内でも多くの人が知っている事実だ。まああのタイミグで言うべきことではないが。

「いいんじゃないのか、俺は楽しめた。それに――」

 私は御杖さんの言葉の続きが聞きたくて、視線で促した。

「傷ついてるって言わないと、誰にも気がついてもらえないぞ」

「……傷ついてなんて」

「ない? 本当に?」

 覗き込むようにして聞かれてつい本音が涙になって目に浮かんできた。

「ううん、本当は傷ついてる。どうして浮気する前に、私のダメなところ言ってくれなかったのかそもそも話し合いができる関係ですらなかったこととか、なんでわざわざ次の彼女が後輩だったのかとか、ただひとつの恋が終わっただけなのに、後輩にはバカにされ、周囲も腫れ物に触るみたいに扱われて――」

 マシンガンのごとく言葉があふれてくる。呼吸をととのえた瞬間目に涙か浮かぶ。

 ポロリと涙が零れ落ちて慌てて手で拭う。これまで誰にも言えなかった本音がひとたび口をついて出ると止まらなかった。

「私だけが悪かったの? こんなひどい思いをするほどのことした?」

 恋愛が破綻するのは、どちらか一方だけが悪いとは思っていない。けれどそれにしてもこの仕打ちはあんまりなのではないかと思う。

 これまで慶とつき合ってきた日々がなんだったのかとむなしくなる。

「よくがんばったな」

 御杖さんが私の背中をポンッと叩いた。その手が思いのほか温かくて、荒んだ心が癒された。

 うつむけていた顔を上げて、涙を拭いた。

「そうです。私がんばりました。だから今日はたくさん飲む!」

 こんな負の感情をいつまでも持っていたくない。今日ですべて過去のものにしたい。

「それはいい考えだ。何か別のもの作ってもらう?」

「はい」

 泣き笑いのひどい顔だろう。しかし御杖さんが私に向ける視線はいたわりが籠っていた。

「今日は最後までつき合ってください」

「ああ、望むところだ」

 出会ったばかりの、しかし居心地のいい男にそう宣言した。

 互いに新しいグラスを掲げて「乾杯!」と声を上げ、そこから杯を重ねた。

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