俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
「あ~あ、いい気持ち」
ホテルにある屋上庭園。良い感じによっぱらった私は酔いを醒まそうとふらふらと歩いている。
その危なげな足取りの私のうしろを、御杖が見守るようにして歩いていた。
屋上庭園では木々が夜風になびき、さわさわと音を立てていた。昼間人の多い時間だと聞こえない心地よい音に耳を澄ませる。
目の前に広がるのは、東京の夜景。これまで何度も見てきたはずなのに一度として同じ瞬きがないのだと思うと不思議な感じがした。
「少し落ち着いた?」
「え、はい」
そう笑みをうかべつつ返事をしたものの、ちゃんと笑えていない私に御杖さんは眉尻を下げて笑う。
「なんだ、強がりか」
「ばれましたか?」
またもや笑ってごまかす。
「まあ、酒くらいで忘れられるなら、今日みたいにはならないだろうな」
私の頭に御杖さんが、大きな手を置いた。そして優しく撫でる。今日会ったばかりの相手なのに不思議と嫌ではなかった。
それは御杖さんが、稀にみるいい男だからかもしれない。
ジャケットを脱いだ彼は、ベストを身に着けているがきちんと彼の体にフィットしていてきちんと仕立てたものだというのがわかる。
しっかりとした決して筋肉質ではないのにしっかりとした体つきが男ぶりを上げている。
それになにより整った甘いマスクは周囲の目を引く。
光の加減によってはわずかに茶色に見えるきちんと整った髪。吸い込まれそうな綺麗な目。笑うと目じりに皺ができるものまたいい。鼻筋の通った高い鼻、上品な薄い唇。そこから奏でられる色気のある少し低めの声も、耳に心地よい。
ごく近くに寄れば気づくウッディーだけどどこかスパイシーな香水の匂い。
視覚で聴覚で、そして臭覚でも、彼が良い男だというのを感じる。
最初に出会った瞬間に感じたよりも、数時間一緒に過ごした今ますますその稀有な美丈夫ぶりに思わず見とれてしまう。
「なに俺の顔に見とれてるんだよ」
「ごめんなさい、綺麗な顔だったもので。つい」