初恋わすれ

「あ！忘れちゃった」

学校の帰り道、リンが、狭い額に眉を寄せて、黒髪を靡かせながら、小さな唇を尖らせている。

そんな幼馴染のリンを見ながら、リョウは、困惑した。ちょっとそそっかしいが、生真面目で、完璧主義のリンが、忘れ物をした事に驚いたからだ。

「……えと、何忘れたの？」

泣き出しそうなリンを横目に、リョウは、ポケットの中を探る。

朝出る時に、いつも持ち歩いてるアレと、母親に言われてハンカチを突っ込んできて良かった。　

「……初恋……何処かに忘れてきちゃった」　

「えっ……」

思わずリョウは困惑した。

ノートを忘れた、宿題を忘れた、筆箱を忘れたといった日常の忘れ物なら、取りに帰ればすむ話だが、初恋となると話は別だ。

「いつ？学校？それとも通学路？家？」

「分かんない……どうしよう、リョウ」

リョウは、ハンカチを取り出すとリンに手渡した。リンは涙を拭くと、遠慮なく鼻水も拭いてから、小さく、ありがと、と言って、リョウにハンカチを返した。

「よく思い出してよ？初恋落っことした時、何か感じなかった？」

「ひっく……何処に忘れたのか、全然分かんない」

これは一大事だ。少なくとも、リョウにとっては、最優先事項といっても過言ではない。

リンは、赤くなった瞳で、晴れ渡る青空を見上げながら、難しい顔をしていたが、はっと、何かに気づいたように、リョウに視線を戻した。