【受賞】幼妻は生真面目夫から愛されたい!
「お背中をお流しします。昔は、お父さまの背中も洗っていたのですよ」
 そうは言ってもオリビアが四歳の頃だ。それ以降、父親と風呂に入った記憶はない。
 浴槽の隣で身体を丸めて小さな椅子に座っていたクラークは、驚いたように振り返った。
「カトリーナ様から、素敵な石鹸を教えていただいたのです」
 カトリーナとはオリビアが懇意にしている友人の一人で、公爵夫人である。
 そしてクラークは、オリビアがここにまで入ってきてしまったことで、あきらめたようだ。
「頼む」
 消え入るような声で、彼はそう口にした。
 オリビアは石鹸を泡立てると、その泡を手に取って優しくクラークの背を洗い始める。
 これも、お茶会から得た情報である。
『海綿でごしごしと擦るよりも、先に手の平で洗ってあげるといいわよ』と、石鹸の話題と同時に、カトリーナはそんなことを口にしたのだ。
「痛くはありませんか?」
「ああ……。すまないな。汚れているのに」
「だから、洗うのです」
 遠征先では湯浴みのできない場所もあると聞く。そういうときは、濡らしたタオルで身体を拭くことしかできないとも。
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