【受賞】幼妻は生真面目夫から愛されたい!
「ありがとう。とても心地よかった。君は寒くないか? 一緒に湯に入るか?」
 自然とその言葉が口から漏れていた。あまりにも自然すぎて、クラークも自覚がなかったくらいだ。
 間違いなく彼の欲望が口からポロリと零れただけなのに。
「はい」
 彼女の返事を耳にして、自分が何を言ったのかを冷静に考え直した。
(お、俺は……。なんてことを言ったんだ? 自ら試練を与えてどうする……。いや、だが彼女にとって、俺は父親代わりなのだろう)
 動揺を悟られないように、クラークは彼女に背を向けたまま急いで浴槽に入る。
 乳白色の湯が身体を隠してくれる。それがせめてもの救いだった。
 花びらから香るしゃぼんの匂いが、気持ちも隠してくれるようだ。
「おいで」
 年上の男らしく、余裕のあるところを見せなければならない。
 焦る気持を無理矢理押さえ込んで、彼女の身体に触れた。
(柔らかい。軽い。柔らかい……。なんだ、これは。同じ人間なのか? やはり、天使じゃないのか? 羽根がついているのでは? ここは天国か?)
 遠征から戻ってきてから、おかしなことばかり起こる。いや、クラークが思ってもいないことばかりだ。
 彼女を抱きかかえるようにして、共に浴槽に入った。
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