【受賞】幼妻は生真面目夫から愛されたい!
 向かい合いたいという欲はあったが、そうすると(たが)が外れてしまうことは目に見えている。だから、彼女を背から抱きかかえる形にした。
 彼女に触れていながらも、彼女の顔が見えないからこそ、今まで口にできなかった言葉がぽろぽろと出てきた。
 彼女の首元に頭を埋め、謝罪の言葉を口にする。
 ――謝らないでください。父の死を惨めなものにしないでください。
 彼女の言葉が心に突き刺さった。これは、彼女に赦してもらえたと思っていいのだろうか。
「私、先にあがりますね。身体も温まりましたので」
 そう言って出ていこうとする彼女にかけられる言葉は「ありがとう」だけだ。
 寄り添ってくれてありがとう。
 一緒にいてくれてありがとう。
 結婚してくれてありがとう。
 その言葉をありがとう。
 さまざまな意味を込めた「ありがとう」である。
 感謝を伝える方法を、クラークはこの言葉しか知らない。
 彼女にとっては不本意な結婚であっただろう。何よりも倍以上も年の離れた男を夫としたのだ。
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