【受賞】幼妻は生真面目夫から愛されたい!
「オリビア……」
 彼が彼女の名を口にすると、やっと口がパクパクと動き始めた。そして、テーブルの上に置いてあった飲みかけのグラスに手を伸ばすと、クラークが止める暇もないほどに、一気に中身を飲み干した。
「わかりました……。離縁しましょう。あなたがそこまで言うのなら」
 彼女の目からは、静かに涙が流れている。
 自ら望んだことであるのに、彼女からそう言われてしまうと、心臓がえぐられたような気持ちになる。
「あなたと離縁したら、私は本当に好きな人と結婚することが許されるのですね?」
 興奮しているためか、次第に彼女の頬は赤く色づき始める。
「ああ。君は成人した。だから、結婚するのに保護者の同意は必要ない」
「承知しました」
 濡れた頬を拭おうともせずに、彼女は目を伏せた。
「ですが。ちょっと離縁の手続きは待っていただけますか? 私が、好きな相手の方に振られてしまったら、元も子もないと思いませんか? 先に相手の方には想いを伝えておきますので」
 その言葉にクラークも納得する。
 彼女の言葉も一理ある。オリビアの好きな相手が誰かはわからないが、別れてからも彼女が独り身の時間が長ければ長いほど、新たな問題が生まれてくる。できれば、次の相手を決めてから離縁手続きに入った方がいいだろう。
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