【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 1
何なら、俺と一緒に住む?
「……すいてます、けど。……夜に食べると〝身〟になるので」
「うどん喰わないか? 驕るよ」
深夜までやっている店の名前を出され、香澄のお腹がグゥ……と鳴る。
「……御劔さまが食べたいと仰るのなら、お付き合いしますが」
素直ではない言い方をすると、佑がクク、と喉で笑った。
「どうしても食べたくて仕方がないから、付き合ってほしい」
「……分かりました」
そのあと一緒に歩いていると、否が応でも視線を集める。
若い女性が「御劔さま!? 嘘ぉ!」と黄色い声を上げ、スマホで写真を撮ろうとする。
酔っ払った男性は大きな声で佑のフルネームを呼んだ。
「いっつもこうなんですか?」
「大体ね。でも札幌だからそれほど騒ぎになっていない感じかな」
言葉の裏に、東京ではこんなものでは済まないという意味を感じ、香澄は閉口した。
やがて店に着き、佑は何でもない顔で暖簾をくぐり、「二名です」と店員に告げた。
時間が時間だけに、シメにうどんを食べて帰ろうとしている人たちは、シラフの状態ではない。
店内の全員が佑に気付いた訳ではなく、店に新しく入った客を気にする余裕のある者のみが「あ」という表情をしただけだった。
テーブル席に座り、佑がメニューを向けてくる。
「先に決めていいよ。あ、串カツとかもやってるんだな」
大阪発祥のうどん店らしく、店の前には福の神のオブジェがある。
香澄はノーマルな物に決め、佑はトッピングが充実した物を頼んだ。
「週末、親友さんとどこに行くんだ? 差し支えなければ」
「……特に遠出する予定はありません。札幌駅にある映画館で映画を見て、ランチして、カラオケして、二人でマッサージを受けて、夕ご飯を食べて……という感じです」
「いいね、そういうの」
軽く言って微笑んだ佑の返事を聞き、香澄は彼に興味を持った。
「御劔さまは、自分の誕生日はどう過ごしていますか?」
「初めて俺の事を聞いてくれたな。興味を示してくれて嬉しい」
「い、いえ……」
ニコニコする佑の視線に耐えきれず、香澄はメニュー立てに視線を逃がす。
「あと、店が終わったあとぐらい、〝御劔さま〟呼びはいいよ」
「ですが……」
「いま君がここにいるのが、客に言われて無理矢理だと思うなら、〝さま〟づけでいいけど」
意地悪な言い方をされ、香澄は唇を尖らせた。
「……意外と意地悪ですよね。……御劔さん」
「よく言われる」
満足気に笑った佑は、「そうだな……」と先ほどの質問に戻る。
「パーティーみたいな事は、人から言われない限りしない」
「そうなんですか? 芸能人とか大勢呼んで、一晩中パーティーしているのかと思っていました」
「前にも言ったけど、大勢とつるむのは得意じゃないんだ」
「あ……」
そう言えば、と彼の言葉を思いだし、納得する。
「家族や親戚が家に来てプレゼントを置いて行ったり、たまに誘われたら両親と食事に行くかな。友人に誘われた時は、出掛けたりもするけど」
「誘われなかったら?」
「家政婦さんが何かご馳走は作ってくれるだろうから、それを食べて終わりかな」
(寂しい……)
皆が憧れる〝世界の御劔〟だというのに、意外とこぢんまりとした誕生日を送っていて、香澄はギャップを感じる。
「……そういう時の恋人とかも…………」
「いないよ?」
スッパリと言われ、香澄はどことなく落ち着かなくなる。
「誕生日は六月三十日だけど、来年、赤松さんが側にいてくれたら、きっと人生で一番楽しい誕生日になると思う」
「そ、そういうのずるいです……」
香澄の反応に、佑は朗らかに笑った。
その後、運ばれてきたうどんを食べ、店を出る。
うどんを食べたからか、体の中から温まった気がした。
「赤松さんの家はどこ? 送るよ?」
「い、いえ。そこまでは」
ビシッと掌をつきつけると、その手を握られた。
「へっ!?」
「温かいお茶が飲みたいな」
掴まれた手をグイッと引き寄せられ、そんな事を言われる。
彼の意図する事を一瞬理解できずに目をまん丸にすると、佑がもう一度繰り返す。
「靴を脱いでどこかで温かいお茶を飲みたいな」
もう一度言われて、やっと彼が自分の家に来たがってるのだと察し、香澄は両手で彼の体を押してブンブンと首を横に振った。
「だっ、駄目です! ちらかってますし!」
「構わないよ」
言いながら、佑はこちらに向かって走ってきたタクシーに手を上げた。
「ちょっ……ちょっと!」
「誓って襲ったりしないから。前から言ってるけど、君と話がしたいだけだ」
タクシーが停まってドアが開いてしまったので、香澄は「もう……」と唸る。
仕方がないのでタクシーに乗り込み、不承不承自宅の住所を告げた。
十五分ほど走行している間、運転手がいるからか、佑は特に何も言わなかった。
その沈黙が逆に香澄を緊張させる。
やがてタクシーが停まったのは、すすきのと中島公園の間を西のほうに行った地点だ。
やはり佑がタクシー代を払い、運転手に礼を言って車を降りる。
「この辺は割と静かなんだな」
「一応、住宅街ですから」
すすきのと言っても範囲は広く、繁華街から離れればそんなにうるさくない。
たとえば東京は歌舞伎町から車で十五分離れても、別の街があるだろう。
そういう意味で、札幌は東京に比べると規模の小さな街だと思う。
香澄の家は賃貸マンションの五階だ。
時間が時間だけに、部屋に行くまで誰にも会わなかったので安心した。
「ちょっと部屋の中確認しますから、一分待っててください」
「どうぞ、何分でも」
玄関ドアを閉め切ったまま、外に立たせるのもどこか悪く、香澄はドアを半開きにして佑に支えさせ、サッと靴を脱いで中に駆け込む。
(えっと……えっと)
パッと見回した限り、特にゴチャゴチャ散らかっている訳ではない。
普段から整頓する癖はついているので、室内はきちんと片付いている。
(でも……!)
乾きやすいからと思って出しておいた洗濯物を、香澄はササッと浴室に持って行く。
1DKの部屋は八畳近くあるリビングと、五畳ほどのベッドルーム、それに二畳のキッチンとバストイレ別の造りだ。
ベッドを見られるのは恥ずかしいので、アコーディオン式のパーテーションで隠す。
さらに普段使いしている小物類など、見られて恥ずかしい物がないかチェックしてから、待たせるのが悪くて焦り、佑を呼びに行ってしまった。
「お、お待たせしました」
「もう入っていいの?」
「は、はい。でもあんまり見ないでくださいね」
声が響いては困るので、コソコソッと話してから、彼を上がらせる。
「へぇ、なかなか広いね。家賃を聞いてもいい?」
「管理費が五千円弱の、四万五千円です」
「そうなんだ」
佑はうんうんと頷いていて、彼が内心東京の家賃と比べているのに気付いた。
「東京だと、これぐらいの家賃だとどうなるんでしょう?」
コートを脱ぎ、佑にもハンガーを差し出す。
「ワンルームか1Kかな」
「そうなんですね。……そういう所も考えないと」
最後は独り言のつもりで言ったのだが、にっこり笑った佑がとんでもない事を言ってくる。
「何なら、俺と一緒に住む?」
「えぇっ!? な、何言ってるんですか!」
思わず大きな声が出てから、香澄は深夜だと気づきバッと両手で口を塞ぐ。
「……タチの悪い冗談はやめてください」
小さな声で言ってから佑を睨むと、「そこに座っててください」と座椅子ソファを示し、台所でお湯を沸かした。
「さっきのは、割と本気なんだけど。一生ものの家にしようと思って、気に入った家を建てたのはいいけど、さすがに一人で住むには広すぎて」
「……ど、どんなお宅にお住まいなんですか?」
「地下一階、地上三階かな」
「わぁ……。プールとかあったりして」
「おや、よく分かったね?」
冗談のつもりで言ったのに「ある」と言われ、香澄は閉口する。
(御劔さんのお金なんだから、『無駄』なんて言うのは筋違いだけど、一人暮らしするって分かってるのに、そこまで大きな家を建てちゃうものかなぁ。……まぁ、いずれ結婚するつもりで建てたんだろうけど)
「赤松さんが仮に東京に来たとして、自分で家賃を払う物件を探す気?」
「当たり前です。自分の住処の家賃は、自分で払わなきゃいけません」
母から送られた茶葉をトントンと急須に入れつつ、香澄は返事をする。
「うどん喰わないか? 驕るよ」
深夜までやっている店の名前を出され、香澄のお腹がグゥ……と鳴る。
「……御劔さまが食べたいと仰るのなら、お付き合いしますが」
素直ではない言い方をすると、佑がクク、と喉で笑った。
「どうしても食べたくて仕方がないから、付き合ってほしい」
「……分かりました」
そのあと一緒に歩いていると、否が応でも視線を集める。
若い女性が「御劔さま!? 嘘ぉ!」と黄色い声を上げ、スマホで写真を撮ろうとする。
酔っ払った男性は大きな声で佑のフルネームを呼んだ。
「いっつもこうなんですか?」
「大体ね。でも札幌だからそれほど騒ぎになっていない感じかな」
言葉の裏に、東京ではこんなものでは済まないという意味を感じ、香澄は閉口した。
やがて店に着き、佑は何でもない顔で暖簾をくぐり、「二名です」と店員に告げた。
時間が時間だけに、シメにうどんを食べて帰ろうとしている人たちは、シラフの状態ではない。
店内の全員が佑に気付いた訳ではなく、店に新しく入った客を気にする余裕のある者のみが「あ」という表情をしただけだった。
テーブル席に座り、佑がメニューを向けてくる。
「先に決めていいよ。あ、串カツとかもやってるんだな」
大阪発祥のうどん店らしく、店の前には福の神のオブジェがある。
香澄はノーマルな物に決め、佑はトッピングが充実した物を頼んだ。
「週末、親友さんとどこに行くんだ? 差し支えなければ」
「……特に遠出する予定はありません。札幌駅にある映画館で映画を見て、ランチして、カラオケして、二人でマッサージを受けて、夕ご飯を食べて……という感じです」
「いいね、そういうの」
軽く言って微笑んだ佑の返事を聞き、香澄は彼に興味を持った。
「御劔さまは、自分の誕生日はどう過ごしていますか?」
「初めて俺の事を聞いてくれたな。興味を示してくれて嬉しい」
「い、いえ……」
ニコニコする佑の視線に耐えきれず、香澄はメニュー立てに視線を逃がす。
「あと、店が終わったあとぐらい、〝御劔さま〟呼びはいいよ」
「ですが……」
「いま君がここにいるのが、客に言われて無理矢理だと思うなら、〝さま〟づけでいいけど」
意地悪な言い方をされ、香澄は唇を尖らせた。
「……意外と意地悪ですよね。……御劔さん」
「よく言われる」
満足気に笑った佑は、「そうだな……」と先ほどの質問に戻る。
「パーティーみたいな事は、人から言われない限りしない」
「そうなんですか? 芸能人とか大勢呼んで、一晩中パーティーしているのかと思っていました」
「前にも言ったけど、大勢とつるむのは得意じゃないんだ」
「あ……」
そう言えば、と彼の言葉を思いだし、納得する。
「家族や親戚が家に来てプレゼントを置いて行ったり、たまに誘われたら両親と食事に行くかな。友人に誘われた時は、出掛けたりもするけど」
「誘われなかったら?」
「家政婦さんが何かご馳走は作ってくれるだろうから、それを食べて終わりかな」
(寂しい……)
皆が憧れる〝世界の御劔〟だというのに、意外とこぢんまりとした誕生日を送っていて、香澄はギャップを感じる。
「……そういう時の恋人とかも…………」
「いないよ?」
スッパリと言われ、香澄はどことなく落ち着かなくなる。
「誕生日は六月三十日だけど、来年、赤松さんが側にいてくれたら、きっと人生で一番楽しい誕生日になると思う」
「そ、そういうのずるいです……」
香澄の反応に、佑は朗らかに笑った。
その後、運ばれてきたうどんを食べ、店を出る。
うどんを食べたからか、体の中から温まった気がした。
「赤松さんの家はどこ? 送るよ?」
「い、いえ。そこまでは」
ビシッと掌をつきつけると、その手を握られた。
「へっ!?」
「温かいお茶が飲みたいな」
掴まれた手をグイッと引き寄せられ、そんな事を言われる。
彼の意図する事を一瞬理解できずに目をまん丸にすると、佑がもう一度繰り返す。
「靴を脱いでどこかで温かいお茶を飲みたいな」
もう一度言われて、やっと彼が自分の家に来たがってるのだと察し、香澄は両手で彼の体を押してブンブンと首を横に振った。
「だっ、駄目です! ちらかってますし!」
「構わないよ」
言いながら、佑はこちらに向かって走ってきたタクシーに手を上げた。
「ちょっ……ちょっと!」
「誓って襲ったりしないから。前から言ってるけど、君と話がしたいだけだ」
タクシーが停まってドアが開いてしまったので、香澄は「もう……」と唸る。
仕方がないのでタクシーに乗り込み、不承不承自宅の住所を告げた。
十五分ほど走行している間、運転手がいるからか、佑は特に何も言わなかった。
その沈黙が逆に香澄を緊張させる。
やがてタクシーが停まったのは、すすきのと中島公園の間を西のほうに行った地点だ。
やはり佑がタクシー代を払い、運転手に礼を言って車を降りる。
「この辺は割と静かなんだな」
「一応、住宅街ですから」
すすきのと言っても範囲は広く、繁華街から離れればそんなにうるさくない。
たとえば東京は歌舞伎町から車で十五分離れても、別の街があるだろう。
そういう意味で、札幌は東京に比べると規模の小さな街だと思う。
香澄の家は賃貸マンションの五階だ。
時間が時間だけに、部屋に行くまで誰にも会わなかったので安心した。
「ちょっと部屋の中確認しますから、一分待っててください」
「どうぞ、何分でも」
玄関ドアを閉め切ったまま、外に立たせるのもどこか悪く、香澄はドアを半開きにして佑に支えさせ、サッと靴を脱いで中に駆け込む。
(えっと……えっと)
パッと見回した限り、特にゴチャゴチャ散らかっている訳ではない。
普段から整頓する癖はついているので、室内はきちんと片付いている。
(でも……!)
乾きやすいからと思って出しておいた洗濯物を、香澄はササッと浴室に持って行く。
1DKの部屋は八畳近くあるリビングと、五畳ほどのベッドルーム、それに二畳のキッチンとバストイレ別の造りだ。
ベッドを見られるのは恥ずかしいので、アコーディオン式のパーテーションで隠す。
さらに普段使いしている小物類など、見られて恥ずかしい物がないかチェックしてから、待たせるのが悪くて焦り、佑を呼びに行ってしまった。
「お、お待たせしました」
「もう入っていいの?」
「は、はい。でもあんまり見ないでくださいね」
声が響いては困るので、コソコソッと話してから、彼を上がらせる。
「へぇ、なかなか広いね。家賃を聞いてもいい?」
「管理費が五千円弱の、四万五千円です」
「そうなんだ」
佑はうんうんと頷いていて、彼が内心東京の家賃と比べているのに気付いた。
「東京だと、これぐらいの家賃だとどうなるんでしょう?」
コートを脱ぎ、佑にもハンガーを差し出す。
「ワンルームか1Kかな」
「そうなんですね。……そういう所も考えないと」
最後は独り言のつもりで言ったのだが、にっこり笑った佑がとんでもない事を言ってくる。
「何なら、俺と一緒に住む?」
「えぇっ!? な、何言ってるんですか!」
思わず大きな声が出てから、香澄は深夜だと気づきバッと両手で口を塞ぐ。
「……タチの悪い冗談はやめてください」
小さな声で言ってから佑を睨むと、「そこに座っててください」と座椅子ソファを示し、台所でお湯を沸かした。
「さっきのは、割と本気なんだけど。一生ものの家にしようと思って、気に入った家を建てたのはいいけど、さすがに一人で住むには広すぎて」
「……ど、どんなお宅にお住まいなんですか?」
「地下一階、地上三階かな」
「わぁ……。プールとかあったりして」
「おや、よく分かったね?」
冗談のつもりで言ったのに「ある」と言われ、香澄は閉口する。
(御劔さんのお金なんだから、『無駄』なんて言うのは筋違いだけど、一人暮らしするって分かってるのに、そこまで大きな家を建てちゃうものかなぁ。……まぁ、いずれ結婚するつもりで建てたんだろうけど)
「赤松さんが仮に東京に来たとして、自分で家賃を払う物件を探す気?」
「当たり前です。自分の住処の家賃は、自分で払わなきゃいけません」
母から送られた茶葉をトントンと急須に入れつつ、香澄は返事をする。