【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 1
焼きうどん
近くには本棚もあり、小説やビジネス系の本、外国語の本も詰まっている。
「何か気になる本があったら、好きに読んでいいよ」
「あ、はい」
香澄の視線の先を見て、佑がすかさず声を掛けてくる。
ダイニングはとても長いテーブルで、向かい合わせの椅子は八脚だが、上座と下座にも椅子をつければ十人は座れる。
そちらにも小ぶりのバイオエタノール暖炉があり、今も炎を揺らめかせている。
「暖房って暖炉のみなんですか? 床暖も入ってます?」
「メインはセントラルヒーティングだよ。その上で、温度をやや低めに設定して、バイオエタノール暖炉で温めている感じだ」
「なるほど……」
「薪ストーブは浪漫があっていいんだけどね。ただ、あれは半分は温かさが煙突にいってしまうから、最終的にコスパ的にこっちを選んだんだ。もちろん、住宅街だから煙たいとご近所さんに悪いし」
「そうなんですね」
「ただ、夢は捨てきれなくて、北海道にある別荘には薪ストーブがあるよ」
「ほぉ……」
香澄の親戚の中にも、別荘地のニセコでペンション経営をしている人がいる。
確かその親戚も、薪ストーブの魅力について熱く語っていた気がするので、佑と気が合うのでは……と思った。
リビングもダイニングも、全面的に屋敷の正面にあるガラス張りになっていて、天井の吹き抜けも相まって開放感が凄い。
巨大なテレビがある部分のみ、視聴の邪魔にならないように後ろに壁がある。
天井には滝のように見事なシャンデリアがあり、ダイニングの上にもアーティスティックな照明が下がっている。
おまけにダイニングの向こうは、ガラスのドアを隔てて外の空間がある。
今は冬季なので壁や天井が閉じているが、夏期になればそれを開放して外でBBQなどを楽しめるのだろう。
ベンチセットや寝転べるベッドまであり、夏は快適そうだ。
すぐ近くには芝生の向こうにプールがあり、想像しただけでリッチな気持ちになる。
(はぁ……。本当に日本かな、ここ)
そんな事を思いながらも、ついつい屋敷に見入ってしまったのを反省し、キッチンにいる斎藤を手伝おうとする。
「斎藤さん、何かお手伝いありますか?」
広々としたアイランドキッチンは、個人の家用というより、斎藤のようなプロを呼んで調理する目的で整えられている。
冷蔵庫も一般家庭にある物ではなく、壁に埋め込まれている。
当然、独立した冷凍庫やオーブン、最新式の電子レンジなどもすべて完備され、大理石の調理台では恐らくパン生地でも捏ねるのだろうか。
(何でも作れそうだな)
そう思っていると、斎藤が返事をする。
「いいえ、今できましたから大丈夫ですよ。強いて言うなら、ランチョンマットなどのご用意をして頂ければ」
「はい! やります! どこにありますか?」
勢いよく返事をした香澄は、斎藤に場所を教えてもらい、ダイニング近くにある引き出しから何種類ものランチョンマットを見つけ、自分の好みでテーブルに並べた。
三枚並べたからか、斎藤がキッチンで笑う。
「私の分はいいですからね? 私は基本的にこちらでご飯を頂きませんから」
「えっ? そうなんですか?」
「親しくさせて頂いていても、雇用主と家政婦の距離感は守らせて頂いています。ご所望があった場合は別ですが、基本的に私の存在は無視してください」
「は……はい……」
佑はその間に、斎藤が作っているのが焼きうどんだと確認して、箸を出している。
チラッと見ると、箸置きも季節に合わせた物が沢山あり、食卓が楽しくなりそうだ。
(こういうお金のかけ方もあるんだな)
やがて盛るだけでお洒落感の出る、黒い焼き物の皿に焼きうどんが盛られる。
キノコがたっぷり入っていて、海苔ものせられ美味しそうだ。
味噌汁は南瓜で、ほっくりとした色が出ていてこちらも食欲がそそられる。
「赤松さん」
「はい?」
斎藤に呼びかけられ、香澄はピッと背筋を伸ばす。
「今日は初日なので、苦手な物があってもご容赦頂きたいのですが、もしお時間がありましたら、好きな食べ物、苦手なもの、アレルギーがある物など書いて頂きたいです。アレルギーはないと、事前に御劔さんに伺っていましたが……」
「あ、はい! 食べられない物って多分ないと思います。苦手なものは多少あるかもですが、考えて書いておきますね」
「はい」
「香澄、食べよう」
佑に呼ばれ、香澄は彼の向かいに座る。
「来客用の箸で済まない。香澄の荷物はもう届くと思うから、愛用の箸や茶碗があれば置いておいて。勿論、心機一転して買い換えるのも賛成だし」
「はい。取りあえず、使える物は引き続き使います」
そのあと、二人で「いただきます」を言い、焼きうどんを食べた。
斎藤の作った焼きうどんは、見た目シンプルで普通なのに、出汁などの旨みが強く、醤油味があっさりしていてとても美味しい。
(調味料も高級なのかな)
気が付けば夢中になって食べる香澄を、キッチンで後片付けをしている斎藤が優しく見守っていた。
食べ終わったあとになり、チャイムが鳴った。
佑を追いかけて玄関に向かうと、五十代ほどの男性が立っている。
「香澄、こちらは円山縁さん。常駐の警備員さんだ。荷物や取り次ぎの用があったら、こうして母屋を訪ねるけど警戒しないで。逆に警備について気に掛かる事があったら、内線で離れにいつでも連絡をして」
「赤松香澄です。宜しくお願い致します」
シュッとしてまじめそうな円山に頭を下げると、彼が微笑んだ。
(あ、一見硬そうだけど、笑うと優しそうだ)
「円山です。宜しくお願いします。御劔さん、引っ越し業者の方が荷物を届けに参りました。玄関を開放しても?」
「はい」
佑が返事をすると、円山は玄関ドアを開き「こちらにお願いします」と声を出す。
そして外気が入る中、引っ越し会社の人たちがあっという間に玄関に香澄の衣装ケースや段ボールなどを置いていく。
「お部屋まで運びますか?」
「そうですね。じゃあ、二階の奥までお願いします。円山さん、案内を」
香澄は自分の荷物なので手伝おうとあわあわするのだが、あっという間に二階まで運ばれてしまった。
「ありがとうございます。報酬については、私から別途手配しておきますので」
最後に佑が微笑むと、いつもより色のついた報酬がもらえるとホクホクした引っ越し業者たちは、挨拶をして去って行った。
「お正月なのに……申し訳ないです」
円山も去り、香澄は二階の廊下にある自分の荷物を見て息をつく。
「まぁ、世の中、正月になると休みたいという人がすべてじゃないという事だ。こちらから手を回して別途振替の休みをお願いして、その分倍額以上払うと言ったら、対応してくれる人もいる」
「……す、すみません……」
佑が余分なお金を払っている事に気づき、香澄は頭を下げる。
「だから」
後頭部をクシャクシャ撫でられ、香澄は思わず顔を上げた。
「これから一緒に暮らすんだから、一々謝るのはナシ。いいね?」
「は、はい」
「『ありがとう』はどれだけ言ってもいいけど、気にしすぎも良くない。すぐには無理だと思うけど、俺の事を少しずつ〝家族〟って思ってほしい」
「……ど、努力します」
「斎藤さんも、日常的に家に出入りするから、必要以上にかしこまらなくていいからね」
「はい」
それでも少し緊張した顔で頷いた香澄を見て、佑はフッと表情から力を抜き、また頭をポンポンと撫でてきた。
「疲れたと思うから、もう自由時間にしようか。荷物を片付けるのに、力仕事がいるならいつでも声を掛けて」
「ありがとうございます」
自由時間と言われ、ようやく肩の力を抜ける気がする。
佑は踵を返してまた一階に下りてゆく。
それを見送ってから、香澄は自分の荷物を見て息をつく。
衣装ケースは半透明なので、何が入っているか見やすい。段ボールはマジックで何が入っているか書いている。
(すぐ必要になる、洗面関係や着替え、寝間着とかを出しておこう)
いまだ気持ちは「ここに住む」となっておらず、どこか旅行先のホテルにいる気分だ。
「んしょ……」
段ボールを持ち上げ、部屋の中に運び込む。
使いかけの基礎化粧品などを出し、「自分の部屋に洗面所とトイレがあるなんて贅沢だな」と思いつつ、ありがたくセットしていく。
それから部屋にある空の本棚に本を収め、ノートパソコンなどは可愛らしいアンティークなデザインのデスクに置く。
「何か気になる本があったら、好きに読んでいいよ」
「あ、はい」
香澄の視線の先を見て、佑がすかさず声を掛けてくる。
ダイニングはとても長いテーブルで、向かい合わせの椅子は八脚だが、上座と下座にも椅子をつければ十人は座れる。
そちらにも小ぶりのバイオエタノール暖炉があり、今も炎を揺らめかせている。
「暖房って暖炉のみなんですか? 床暖も入ってます?」
「メインはセントラルヒーティングだよ。その上で、温度をやや低めに設定して、バイオエタノール暖炉で温めている感じだ」
「なるほど……」
「薪ストーブは浪漫があっていいんだけどね。ただ、あれは半分は温かさが煙突にいってしまうから、最終的にコスパ的にこっちを選んだんだ。もちろん、住宅街だから煙たいとご近所さんに悪いし」
「そうなんですね」
「ただ、夢は捨てきれなくて、北海道にある別荘には薪ストーブがあるよ」
「ほぉ……」
香澄の親戚の中にも、別荘地のニセコでペンション経営をしている人がいる。
確かその親戚も、薪ストーブの魅力について熱く語っていた気がするので、佑と気が合うのでは……と思った。
リビングもダイニングも、全面的に屋敷の正面にあるガラス張りになっていて、天井の吹き抜けも相まって開放感が凄い。
巨大なテレビがある部分のみ、視聴の邪魔にならないように後ろに壁がある。
天井には滝のように見事なシャンデリアがあり、ダイニングの上にもアーティスティックな照明が下がっている。
おまけにダイニングの向こうは、ガラスのドアを隔てて外の空間がある。
今は冬季なので壁や天井が閉じているが、夏期になればそれを開放して外でBBQなどを楽しめるのだろう。
ベンチセットや寝転べるベッドまであり、夏は快適そうだ。
すぐ近くには芝生の向こうにプールがあり、想像しただけでリッチな気持ちになる。
(はぁ……。本当に日本かな、ここ)
そんな事を思いながらも、ついつい屋敷に見入ってしまったのを反省し、キッチンにいる斎藤を手伝おうとする。
「斎藤さん、何かお手伝いありますか?」
広々としたアイランドキッチンは、個人の家用というより、斎藤のようなプロを呼んで調理する目的で整えられている。
冷蔵庫も一般家庭にある物ではなく、壁に埋め込まれている。
当然、独立した冷凍庫やオーブン、最新式の電子レンジなどもすべて完備され、大理石の調理台では恐らくパン生地でも捏ねるのだろうか。
(何でも作れそうだな)
そう思っていると、斎藤が返事をする。
「いいえ、今できましたから大丈夫ですよ。強いて言うなら、ランチョンマットなどのご用意をして頂ければ」
「はい! やります! どこにありますか?」
勢いよく返事をした香澄は、斎藤に場所を教えてもらい、ダイニング近くにある引き出しから何種類ものランチョンマットを見つけ、自分の好みでテーブルに並べた。
三枚並べたからか、斎藤がキッチンで笑う。
「私の分はいいですからね? 私は基本的にこちらでご飯を頂きませんから」
「えっ? そうなんですか?」
「親しくさせて頂いていても、雇用主と家政婦の距離感は守らせて頂いています。ご所望があった場合は別ですが、基本的に私の存在は無視してください」
「は……はい……」
佑はその間に、斎藤が作っているのが焼きうどんだと確認して、箸を出している。
チラッと見ると、箸置きも季節に合わせた物が沢山あり、食卓が楽しくなりそうだ。
(こういうお金のかけ方もあるんだな)
やがて盛るだけでお洒落感の出る、黒い焼き物の皿に焼きうどんが盛られる。
キノコがたっぷり入っていて、海苔ものせられ美味しそうだ。
味噌汁は南瓜で、ほっくりとした色が出ていてこちらも食欲がそそられる。
「赤松さん」
「はい?」
斎藤に呼びかけられ、香澄はピッと背筋を伸ばす。
「今日は初日なので、苦手な物があってもご容赦頂きたいのですが、もしお時間がありましたら、好きな食べ物、苦手なもの、アレルギーがある物など書いて頂きたいです。アレルギーはないと、事前に御劔さんに伺っていましたが……」
「あ、はい! 食べられない物って多分ないと思います。苦手なものは多少あるかもですが、考えて書いておきますね」
「はい」
「香澄、食べよう」
佑に呼ばれ、香澄は彼の向かいに座る。
「来客用の箸で済まない。香澄の荷物はもう届くと思うから、愛用の箸や茶碗があれば置いておいて。勿論、心機一転して買い換えるのも賛成だし」
「はい。取りあえず、使える物は引き続き使います」
そのあと、二人で「いただきます」を言い、焼きうどんを食べた。
斎藤の作った焼きうどんは、見た目シンプルで普通なのに、出汁などの旨みが強く、醤油味があっさりしていてとても美味しい。
(調味料も高級なのかな)
気が付けば夢中になって食べる香澄を、キッチンで後片付けをしている斎藤が優しく見守っていた。
食べ終わったあとになり、チャイムが鳴った。
佑を追いかけて玄関に向かうと、五十代ほどの男性が立っている。
「香澄、こちらは円山縁さん。常駐の警備員さんだ。荷物や取り次ぎの用があったら、こうして母屋を訪ねるけど警戒しないで。逆に警備について気に掛かる事があったら、内線で離れにいつでも連絡をして」
「赤松香澄です。宜しくお願い致します」
シュッとしてまじめそうな円山に頭を下げると、彼が微笑んだ。
(あ、一見硬そうだけど、笑うと優しそうだ)
「円山です。宜しくお願いします。御劔さん、引っ越し業者の方が荷物を届けに参りました。玄関を開放しても?」
「はい」
佑が返事をすると、円山は玄関ドアを開き「こちらにお願いします」と声を出す。
そして外気が入る中、引っ越し会社の人たちがあっという間に玄関に香澄の衣装ケースや段ボールなどを置いていく。
「お部屋まで運びますか?」
「そうですね。じゃあ、二階の奥までお願いします。円山さん、案内を」
香澄は自分の荷物なので手伝おうとあわあわするのだが、あっという間に二階まで運ばれてしまった。
「ありがとうございます。報酬については、私から別途手配しておきますので」
最後に佑が微笑むと、いつもより色のついた報酬がもらえるとホクホクした引っ越し業者たちは、挨拶をして去って行った。
「お正月なのに……申し訳ないです」
円山も去り、香澄は二階の廊下にある自分の荷物を見て息をつく。
「まぁ、世の中、正月になると休みたいという人がすべてじゃないという事だ。こちらから手を回して別途振替の休みをお願いして、その分倍額以上払うと言ったら、対応してくれる人もいる」
「……す、すみません……」
佑が余分なお金を払っている事に気づき、香澄は頭を下げる。
「だから」
後頭部をクシャクシャ撫でられ、香澄は思わず顔を上げた。
「これから一緒に暮らすんだから、一々謝るのはナシ。いいね?」
「は、はい」
「『ありがとう』はどれだけ言ってもいいけど、気にしすぎも良くない。すぐには無理だと思うけど、俺の事を少しずつ〝家族〟って思ってほしい」
「……ど、努力します」
「斎藤さんも、日常的に家に出入りするから、必要以上にかしこまらなくていいからね」
「はい」
それでも少し緊張した顔で頷いた香澄を見て、佑はフッと表情から力を抜き、また頭をポンポンと撫でてきた。
「疲れたと思うから、もう自由時間にしようか。荷物を片付けるのに、力仕事がいるならいつでも声を掛けて」
「ありがとうございます」
自由時間と言われ、ようやく肩の力を抜ける気がする。
佑は踵を返してまた一階に下りてゆく。
それを見送ってから、香澄は自分の荷物を見て息をつく。
衣装ケースは半透明なので、何が入っているか見やすい。段ボールはマジックで何が入っているか書いている。
(すぐ必要になる、洗面関係や着替え、寝間着とかを出しておこう)
いまだ気持ちは「ここに住む」となっておらず、どこか旅行先のホテルにいる気分だ。
「んしょ……」
段ボールを持ち上げ、部屋の中に運び込む。
使いかけの基礎化粧品などを出し、「自分の部屋に洗面所とトイレがあるなんて贅沢だな」と思いつつ、ありがたくセットしていく。
それから部屋にある空の本棚に本を収め、ノートパソコンなどは可愛らしいアンティークなデザインのデスクに置く。