【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 1
御劔邸での最初の一夜
(必要な家具は、一通り揃ってるんだもんな……)
ドレッサーは左右に引き出しがあり、沢山収納できるタイプだ。
ナチュラルなウッド調で、全体的にどの家具も部屋の雰囲気と調和が取れている。
部屋は白壁で、フローリングの色も相まってリラックスできる。
カーテンはどこか香澄が一人暮らしをしていた部屋を思わせる、淡いグリーンやブルー、ベージュが混ざった軽やかな色彩だ。
チェストに下着を入れ、香澄は着々と荷物を片付けてゆく。
あまり多くない荷物をほぼ片付け終わった頃には、じんわり汗を掻いていた。
時刻は二十二時になろうとしている。
(……お風呂入りたい。シャワーだけでも……)
佑に確認すれば、「好きに入っていいよ」と言われるのが目に見えているのだが、一応荷物を片付けた事も報告しておこうと思った。
部屋を出ても屋敷の中はシンとしていて、常にテレビの音が聞こえた実家とは大違いだ。
階段に向かおうとした途中、佑の書斎の明かりがついているのに気付く。
(いるのかな?)
ヒョッと除くと、重厚感のある立派な書斎のデスクに佑がいて、パソコンのモニターを見ていた。
「ん? 何か?」
彼はすぐに香澄に気づき、こちらを見る。
「眼鏡掛けてるんですね」
「ああ、……効果がないとか諸説言われているけど、一応気休めにブルーライト対処に」
「そうなんですね。雰囲気が違って、ちょっと……いいです」
「ん? 眼鏡掛けてる男が好き?」
佑はプレジデントチェアをクルリと回し、こちらに向き直って微笑む。
「い、いえ、そうじゃなくて……。ギャップがあるといいな、と」
「ふぅん?」
(うう……)
彼は嬉しそうに微笑んでいて、なぜだか佑を喜ばせると「負け」な気がする。
「えっと……あの。部屋のお風呂、使っていいですか? 荷物を片付けたら、ちょっと汗を掻いちゃって」
「どうぞ? 香澄の部屋なんだから、いちいち許可なんていいからな? あと、部屋に小さい冷蔵庫があるけど、中の物もどうぞ自由に」
「は、はい……。じゃあ、そのあと、今日は疲れたので、歯磨きをして休ませてもらいます」
「ん、おやすみ」
「明日は、何時起きですか? 朝食の準備とか、御劔さんの生活ペースとか……」
「仕事始めは六日からだから、俺もゆっくりしてる。だから大丈夫。疲れが取れるまで寝ていていいよ」
明日の事を確認し、一番気にしていた事を尋ねる。
「その、お正月ですが、みつる……佑さんのご家族には、新年のご挨拶は済んでいますか?」
「ああ、それ? 一応、元旦には実家に顔を出したよ。もしうちの両親を気にしているなら、挨拶をするのはもう少し落ち着いてからでもいいと思う」
「そう……ですか」
佑の返事を聞き、意気込んでいたのが躓いたような、安心した心地になる。
「あと、あー……」
急に彼が気まずそうな顔をし、顎に手をやる。
「どうかしましたか?」
「いや、大した事じゃないんだけど、うちの母親は少しクセの強い人なんだ。会った時に失礼があったらすまない。先に詫びておく」
「大丈夫です」
(これだけ非の打ち所のない息子さんがいるなら、大切なのは分かる。もしかしたら佑さんって、マザコンだったから今まで相手がいなかったのかな。……それは、今後がちょっと心配だけど……)
一抹の不安を抱いたが、例の契約書もあるし、お先真っ暗ではない。
(いや、でもマザコンの人って自分の母親をこういう風に言わないか)
そんな事を考え、香澄は笑みを浮かべる。
「そのうち、ご家族のお話を聞いて、お会いするために心構えをしていきたいです」
「ああ。今日はもう、疲れただろうからおやすみ」
「はい」
部屋に戻ると、寝間着を出す。
なぜだか香澄はパジャマを着ず、寝る時はキャミソールにタップパンツだ。
自分でもよくわからないのだが、多分素肌と布団が擦れる感覚が好きなのだと思う。
北海道の家は断熱材がしっかりあり、冬場でもストーブをつけていれば家の中で半袖Tシャツでも過ごせる。
そのような背景から、香澄は一年中このような軽装で寝ていた。
バスルームは一般家庭の風呂場と遜色なく、むしろ洗い場が一畳半ほどあって広々と使える。
人の家なので少し緊張して服を脱ぎ、サッとバスルームに入ってシャワーを浴びる。
(お風呂入りたいけど、今日はお湯溜めるの面倒だから、明日にしよう……)
自宅から運んだ、使いかけのシャンプー類で髪と体を洗い、メイクも落としてようやくスッキリした気がする。
洗面所にはフカフカのバスタオル、フェイスタオルが何枚も重なっていて、使い終わった物は、ホテルのようにダストボックスに洗濯用として入れるようになっていた。
新品のフワフワタオルは、どこか慣れない。
情けない事に、柔軟剤を使っても何となくゴワゴワしている、薄い自分のバスタオルが懐かしかった。
荷物を片付ける途中で何度か手洗いも使ったが、とても綺麗だった。
加えてきちんとサニタリーボックスもあるので、何とも言えない気持ちになった。
(あれは……。御劔さんの気遣いではなく、斎藤さんとかのアドバイスとか、このお屋敷全部のトイレに常備してあると思いたい……)
佑は確かに気遣いのできる男性だと思うが、自分の家に初めて連れて来る女性のために、サニタリーボックスまで用意してあるのは、さすがに薄ら寒いものがある。
(あとでさりげなく、他の場所のトイレも確認してみよう)
ドライヤーは洗面台の引き出しにあり、香澄が今まで買いたくても買えなかった、有名家電ブランドのマイナスイオンが出る物だ。
「嬉しい……」
ブオオ……と髪を乾かして、仕上げにお気に入りのブラシで髪を整えると、気持ちいつもより髪がツヤツヤになっている気がする。
「はぁ……」
溜め息をつき、香澄は喉の渇きを覚え、佑が言っていた部屋の冷蔵庫を開ける。
「わお。ホテルのミニバーみたい」
一人暮らしの人が使う大きさの冷蔵庫には、冷凍室もある。
そこには何かあった時用に、保冷剤が冷やされていた。
(自分用アイス、ここに入れられるな)
冷蔵部分には、よく飲まれる緑茶やほうじ茶、水のペットボトルがある。
先ほど少し開いて中を確認したチェストには、額に張る冷感ジェルシートや体温計、爪切りややすりなど、生活に必要な物は一通りあった。
電話の子機もあり、佑が最初からこの部屋を使ってほしいと思っていたのが分かる。
テレビは香澄の一人暮らし時代より大きい。
あとから聞いておののいたのは、いまだ値段の高い8Kテレビだそうだ。
ブルーレイレコーダーや、外付けのHDDまであり、恐らくそれもとても容量のある物では……と推測する。
少しチャンネルを確認すると、普通の地上波以外に複数のケーブルテレビを契約しているようだった。
(初孫を喜ぶお爺ちゃんみたいだな。……いや、お父さんか)
部屋は勿論セントラルヒーティングで暖まっているので、室内にあるエアコンは夏期用だろう。
当たり前に空気清浄機もあり、本当に至れり尽くせりだ。
(何だかあまりに全部そろいすぎて、お姫様になったみたい。あんまり考えると頭がクラクラするから、寝ちゃおう)
歯磨きもし、電気を消そうと思って香澄は室内にあるフェリシアをじっと見る。
「……フェリシア」
『はい、なんでしょう』
(しゃべった!)
「……で、電気を消して」
香澄がドキドキしながら消灯を頼むと、フッと部屋のメイン照明が落ちた。
(おお~!)
心の中で拍手を送り、香澄はモソモソとベッドに入る。
枕元には丁度いい事に、電源やUSBポートがあった。
ありがたく充電させてもらい、そう言えば……と思った時にメモが目に入る。
「……さすが」
この屋敷内のWi-Fiのパスワードが、枕元のメモに書いてあった。
「……そつがないなぁ……」
むしろ全能神のようにも感じながら、ありがたくスマホをWi-Fiに繋げ、安心してモバイル通信を切る。
何となくベッドサイドの引き出しを引くと、中に手紙が入っていた。
「ん……? 読んでいいのかな?」
白い封筒には『香澄へ』と書いてある。
封をされていない封筒を開け便箋を開くと、佑のメッセージがあった。
『御劔家へようこそ。強引に連れてきてしまった自覚はあるので、多分心身共に疲れていると思います。数日、まずはゆっくり体を休めて、環境に慣れてください。仕事や東京の地理に慣れるのは、その次ぐらいでいいです。我が家では、ゴミ、洗濯物収集、掃除洗濯は出入りしている人がやってくれます。こだわりのある洗濯物は、メモして洗面所に置いてください。基本的に家事のプロなので心配ないと思いますが。これからどうぞ宜しく。毎日楽しく過ごせますように。佑』
彼からのメッセージを読み終えて、香澄は息をつく。
ドレッサーは左右に引き出しがあり、沢山収納できるタイプだ。
ナチュラルなウッド調で、全体的にどの家具も部屋の雰囲気と調和が取れている。
部屋は白壁で、フローリングの色も相まってリラックスできる。
カーテンはどこか香澄が一人暮らしをしていた部屋を思わせる、淡いグリーンやブルー、ベージュが混ざった軽やかな色彩だ。
チェストに下着を入れ、香澄は着々と荷物を片付けてゆく。
あまり多くない荷物をほぼ片付け終わった頃には、じんわり汗を掻いていた。
時刻は二十二時になろうとしている。
(……お風呂入りたい。シャワーだけでも……)
佑に確認すれば、「好きに入っていいよ」と言われるのが目に見えているのだが、一応荷物を片付けた事も報告しておこうと思った。
部屋を出ても屋敷の中はシンとしていて、常にテレビの音が聞こえた実家とは大違いだ。
階段に向かおうとした途中、佑の書斎の明かりがついているのに気付く。
(いるのかな?)
ヒョッと除くと、重厚感のある立派な書斎のデスクに佑がいて、パソコンのモニターを見ていた。
「ん? 何か?」
彼はすぐに香澄に気づき、こちらを見る。
「眼鏡掛けてるんですね」
「ああ、……効果がないとか諸説言われているけど、一応気休めにブルーライト対処に」
「そうなんですね。雰囲気が違って、ちょっと……いいです」
「ん? 眼鏡掛けてる男が好き?」
佑はプレジデントチェアをクルリと回し、こちらに向き直って微笑む。
「い、いえ、そうじゃなくて……。ギャップがあるといいな、と」
「ふぅん?」
(うう……)
彼は嬉しそうに微笑んでいて、なぜだか佑を喜ばせると「負け」な気がする。
「えっと……あの。部屋のお風呂、使っていいですか? 荷物を片付けたら、ちょっと汗を掻いちゃって」
「どうぞ? 香澄の部屋なんだから、いちいち許可なんていいからな? あと、部屋に小さい冷蔵庫があるけど、中の物もどうぞ自由に」
「は、はい……。じゃあ、そのあと、今日は疲れたので、歯磨きをして休ませてもらいます」
「ん、おやすみ」
「明日は、何時起きですか? 朝食の準備とか、御劔さんの生活ペースとか……」
「仕事始めは六日からだから、俺もゆっくりしてる。だから大丈夫。疲れが取れるまで寝ていていいよ」
明日の事を確認し、一番気にしていた事を尋ねる。
「その、お正月ですが、みつる……佑さんのご家族には、新年のご挨拶は済んでいますか?」
「ああ、それ? 一応、元旦には実家に顔を出したよ。もしうちの両親を気にしているなら、挨拶をするのはもう少し落ち着いてからでもいいと思う」
「そう……ですか」
佑の返事を聞き、意気込んでいたのが躓いたような、安心した心地になる。
「あと、あー……」
急に彼が気まずそうな顔をし、顎に手をやる。
「どうかしましたか?」
「いや、大した事じゃないんだけど、うちの母親は少しクセの強い人なんだ。会った時に失礼があったらすまない。先に詫びておく」
「大丈夫です」
(これだけ非の打ち所のない息子さんがいるなら、大切なのは分かる。もしかしたら佑さんって、マザコンだったから今まで相手がいなかったのかな。……それは、今後がちょっと心配だけど……)
一抹の不安を抱いたが、例の契約書もあるし、お先真っ暗ではない。
(いや、でもマザコンの人って自分の母親をこういう風に言わないか)
そんな事を考え、香澄は笑みを浮かべる。
「そのうち、ご家族のお話を聞いて、お会いするために心構えをしていきたいです」
「ああ。今日はもう、疲れただろうからおやすみ」
「はい」
部屋に戻ると、寝間着を出す。
なぜだか香澄はパジャマを着ず、寝る時はキャミソールにタップパンツだ。
自分でもよくわからないのだが、多分素肌と布団が擦れる感覚が好きなのだと思う。
北海道の家は断熱材がしっかりあり、冬場でもストーブをつけていれば家の中で半袖Tシャツでも過ごせる。
そのような背景から、香澄は一年中このような軽装で寝ていた。
バスルームは一般家庭の風呂場と遜色なく、むしろ洗い場が一畳半ほどあって広々と使える。
人の家なので少し緊張して服を脱ぎ、サッとバスルームに入ってシャワーを浴びる。
(お風呂入りたいけど、今日はお湯溜めるの面倒だから、明日にしよう……)
自宅から運んだ、使いかけのシャンプー類で髪と体を洗い、メイクも落としてようやくスッキリした気がする。
洗面所にはフカフカのバスタオル、フェイスタオルが何枚も重なっていて、使い終わった物は、ホテルのようにダストボックスに洗濯用として入れるようになっていた。
新品のフワフワタオルは、どこか慣れない。
情けない事に、柔軟剤を使っても何となくゴワゴワしている、薄い自分のバスタオルが懐かしかった。
荷物を片付ける途中で何度か手洗いも使ったが、とても綺麗だった。
加えてきちんとサニタリーボックスもあるので、何とも言えない気持ちになった。
(あれは……。御劔さんの気遣いではなく、斎藤さんとかのアドバイスとか、このお屋敷全部のトイレに常備してあると思いたい……)
佑は確かに気遣いのできる男性だと思うが、自分の家に初めて連れて来る女性のために、サニタリーボックスまで用意してあるのは、さすがに薄ら寒いものがある。
(あとでさりげなく、他の場所のトイレも確認してみよう)
ドライヤーは洗面台の引き出しにあり、香澄が今まで買いたくても買えなかった、有名家電ブランドのマイナスイオンが出る物だ。
「嬉しい……」
ブオオ……と髪を乾かして、仕上げにお気に入りのブラシで髪を整えると、気持ちいつもより髪がツヤツヤになっている気がする。
「はぁ……」
溜め息をつき、香澄は喉の渇きを覚え、佑が言っていた部屋の冷蔵庫を開ける。
「わお。ホテルのミニバーみたい」
一人暮らしの人が使う大きさの冷蔵庫には、冷凍室もある。
そこには何かあった時用に、保冷剤が冷やされていた。
(自分用アイス、ここに入れられるな)
冷蔵部分には、よく飲まれる緑茶やほうじ茶、水のペットボトルがある。
先ほど少し開いて中を確認したチェストには、額に張る冷感ジェルシートや体温計、爪切りややすりなど、生活に必要な物は一通りあった。
電話の子機もあり、佑が最初からこの部屋を使ってほしいと思っていたのが分かる。
テレビは香澄の一人暮らし時代より大きい。
あとから聞いておののいたのは、いまだ値段の高い8Kテレビだそうだ。
ブルーレイレコーダーや、外付けのHDDまであり、恐らくそれもとても容量のある物では……と推測する。
少しチャンネルを確認すると、普通の地上波以外に複数のケーブルテレビを契約しているようだった。
(初孫を喜ぶお爺ちゃんみたいだな。……いや、お父さんか)
部屋は勿論セントラルヒーティングで暖まっているので、室内にあるエアコンは夏期用だろう。
当たり前に空気清浄機もあり、本当に至れり尽くせりだ。
(何だかあまりに全部そろいすぎて、お姫様になったみたい。あんまり考えると頭がクラクラするから、寝ちゃおう)
歯磨きもし、電気を消そうと思って香澄は室内にあるフェリシアをじっと見る。
「……フェリシア」
『はい、なんでしょう』
(しゃべった!)
「……で、電気を消して」
香澄がドキドキしながら消灯を頼むと、フッと部屋のメイン照明が落ちた。
(おお~!)
心の中で拍手を送り、香澄はモソモソとベッドに入る。
枕元には丁度いい事に、電源やUSBポートがあった。
ありがたく充電させてもらい、そう言えば……と思った時にメモが目に入る。
「……さすが」
この屋敷内のWi-Fiのパスワードが、枕元のメモに書いてあった。
「……そつがないなぁ……」
むしろ全能神のようにも感じながら、ありがたくスマホをWi-Fiに繋げ、安心してモバイル通信を切る。
何となくベッドサイドの引き出しを引くと、中に手紙が入っていた。
「ん……? 読んでいいのかな?」
白い封筒には『香澄へ』と書いてある。
封をされていない封筒を開け便箋を開くと、佑のメッセージがあった。
『御劔家へようこそ。強引に連れてきてしまった自覚はあるので、多分心身共に疲れていると思います。数日、まずはゆっくり体を休めて、環境に慣れてください。仕事や東京の地理に慣れるのは、その次ぐらいでいいです。我が家では、ゴミ、洗濯物収集、掃除洗濯は出入りしている人がやってくれます。こだわりのある洗濯物は、メモして洗面所に置いてください。基本的に家事のプロなので心配ないと思いますが。これからどうぞ宜しく。毎日楽しく過ごせますように。佑』
彼からのメッセージを読み終えて、香澄は息をつく。