【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 1
運転手と護衛
気持ちとしては芸能人と一緒に過ごしているようで、自分と佑が男女の仲になるなど今は考えられない。
「駄目だ。『でもでもだって』だと呆れられる。子供じゃないんだから」
濡れた手でペチッと自分の頬を叩き、気合いを入れる。
(佑さんに『信じます』って言ってここまで来たんだから、もっと私自身、乗り気でいかないと)
そのあとはなるべく何も考えないようにし、温まった体をベッドに横たえると、すやっと眠ってしまった。
**
翌日、朝食をとったあと、百貨店の開店に合わせて外出するらしく、香澄はクローゼットの前でうんうん唸っていた。
「どうした? 決まらない?」
ヒョッと顔を覗かせた佑に、香澄は助けを求める。
「お出かけなのでお洒落な服を着たいと思ったのですが、組み合わせとか分からなくて……」
例のクローゼットにある服は、一点のみで見るとどれも素敵だ。
だがトップスとボトムスを自分のセンスで組み合わせ、髪型やメイクを……となると、荷が重い。
札幌で仕事をする時はパンツスーツ一択で、私生活では適当な服装で過ごしていたツケがきた。
「じゃあ、俺が選んでも大丈夫?」
「はい、ぜひお願いします!」
そのあと佑はハンガーの間に手を入れてアイテムを確認し、香澄の前に服を当ててあれこれ確認していた。
「今日は試着とかもしてもらうし、脱ぎ着しやすいという理由でワンピースにしよう」
言われて差し出されたのは、くすみピンクのワンピースだ。
首元はVネックで、ウエストは共布のベルトで留めるようになっている。
スカート部分は細かなプリーツになっていて、大人っぽさもありながら甘さもあるアイテムだ。
「その上に、これ」
フワッと渡されたのは、ボアが温かそうベージュのジャンパーだ。
そして赤身のある茶色い革製のクロスボディバッグも出され、完璧にコーディネートされる。
「このドレッサーの引き出しにも、使い回しできそうなアクセサリーを数点入れておいたんだけど……。何がいいかな」
そう言って佑は「開けるよ」と断り、引き出しを開ける。
香澄の私物も数点あるのだが、他に並んでいるセンスのいい物はすべて事前に入っていた物だ。
「そうだ」
彼は突然呟き、香澄に近付くとサラッと耳元の髪を掻き上げた。
「ひゃ……っ」
驚きとくすぐったさで肩をすくめると、佑が顔を近付けてくる。
(近……っ)
「……うん。穴、開いてないな」
最後にフニッと香澄の耳たぶを摘まんでから、佑はまたドレッサーの方に戻る。
(びっくりしたああああ!!)
さりげない接近術なのかと思っていたが、彼は真剣な顔でイヤーカフやイヤリングを手に取っては、香澄に向けている。
(……無意識か)
どうやらファッション関係になると、意識が集中してしまうようだ。
「これにしよう」
佑が差し出してきたので、香澄は掌を出す。
チャラッとのせられたのは、留め具の部分には大きなパールがあり、そこから幾つものクリアストーンがハート型になり、さらに大きなパールが下がっている物だ。
「わあ、可愛い」
無邪気に喜んだ香澄は、それがワンセット十万円近くするのを知らない。
もし知っていれば、生まれたての子鹿のように震えて佑に突き返していただろう。
さらにこの部屋のリネン類など、すでに揃えられている物もかなりの値段がする物なのだが、何も気付いていない。
無知の勝利である。
その後、佑が決めてくれたコーディネートに身を包み、出掛ける準備をした。
**
「改めまして、初めまして。運転手をしております、小金井勝也と申します」
今までチラッと顔を合わせていた運転手は、五十代前半の男性だ。
温厚そうな人で、にこやかに挨拶をされて香澄も会釈を返す。
「私も同じく運転手の、瀬尾和成と申します」
もう一人頭を下げたのは、佑と同い年ぐらいの男性だ。
口角がキュッと上がっていて、楽しげな表情を窺わせる。
二人に共通しているのは、既婚者。
そしていざという時にボディガードの役割も果たせるよう、一通りの体術は心得ている事だ。
他にも香澄の前には四人の男性が立っていた。
「私は小山内明と申します。ここにいる四人がメインとなる護衛ですが、チーフという事になっています」
小山内は四十代半ばの男性で、意志の強そうな顔立ちをしている。
身長は一七〇センチメートル少しだが、柔道などが強そうながっちりした体型だ。
「私は久住信司と申します」
端正な顔立ちをした久住は、三十歳そこそこぐらいで、香澄と歳が近そうだ。
少し神経質そうな印象を受けるが、その分仕事に隙がなさそうな感じがする。
(何となく、A型っぽいな)
香澄は印象だけで勝手な想像をした。
「私は呉代大輔と申します」
そう名乗った彼はベリーショートで、どことなく体育大学出身……という印象がある。
香澄の知る限り、偏見だが「だいすけ」という名前の男友達は、皆どこか豪快な性格をしていた。
だからかもしれないが、彼も明るくて社交的なのでは、と思った。
ちなみに彼も、年齢は香澄と近いのでは、という感じだ。
「私は佐野壱也と申します。最年少です」
佐野はまだ若さの残る感じで、二十代半ばほどだ。
まじめで、ひたむきな印象があり、きっと勤勉な人なのだろうな、という印象を抱く。
「今まで、四人でローテーションを組んでコンビを作ってもらっていたけど、これからは香澄にも二人体制でついてもらう。休みも確保しなければいけないから、人員を増す必要があるな。それは手を回しておこう」
車に乗り込む前に玄関で紹介を受け、香澄は頭の中で必死に顔と名前を結びつける。
今までの仕事の甲斐もあり、人の顔と名前を覚えるのは得意だ。
「どうぞ宜しくお願い致します」
ペコリと頭を下げると、彼らも微笑して会釈をしてくれた。
「普段、彼らは仕事柄サングラスをする事が多いけど、ビビらなくていいからな。『そういうもの』だと思っていて」
「分かりました」
あとから聞けば、表情や目線を読み取らせないためとか、何かを掛けられても目は守れるなど、メリットがあるらしい。
取りあえず今日は、小金井が運転する車の助手席に呉代が座り、後部座席に佑と香澄が座るらしい。
残る護衛の三人は、瀬尾が運転する車でついてくるそうだ。
乗り込んだあと、静かなエンジンの車は白金台の街を走ってゆく。
「ボディガードってやっぱりスーツが制服なんですか?」
「場所により、私服の場合もあるよ。物々しい護衛が必要な時もあれば、街中ではスーツを着ているとサラリーマンに紛れる事もできる。休日は私服とか、臨機応変かな」
「なるほど」
佑の返事を聞き、香澄は手をポンと打つ。
「……でも、護衛が必要になる場面なんてあるんですか? 日本って治安がいいって言われるので、あまり想像できないんですが」
香澄はつい、素朴な疑問を口にする。
「日本でも、人が大勢集まる所だと何が起こるか分からないから、用心のためだ。護衛なしに何かがあって大きな損失を出すより、転ばぬ先の杖として身の回りを固めておいた方がいい場合もある。海外出張も月に何回も行くから、結果的には彼らにいてもらって良かったと思っている。危険な目に何度も遭った訳じゃないけど、いるといないじゃ大きな違いだから」
「そうなんですね」
分からなかったので質問したが、もしかしたら佑クラスの経営者なら、護衛を雇っているのは当たり前の事なのかもしれない。
「慣れないと思うけど、守られる生活に慣れてほしい」
「……分かりました。なるべく、努力してみます」
この時の香澄は、自分が〝要人〟となった自覚はゼロだった。
だがそのうち、徐々に〝世界の御劔〟に選ばれた重圧や立場なども思い知っていく事になる。
**
「駄目だ。『でもでもだって』だと呆れられる。子供じゃないんだから」
濡れた手でペチッと自分の頬を叩き、気合いを入れる。
(佑さんに『信じます』って言ってここまで来たんだから、もっと私自身、乗り気でいかないと)
そのあとはなるべく何も考えないようにし、温まった体をベッドに横たえると、すやっと眠ってしまった。
**
翌日、朝食をとったあと、百貨店の開店に合わせて外出するらしく、香澄はクローゼットの前でうんうん唸っていた。
「どうした? 決まらない?」
ヒョッと顔を覗かせた佑に、香澄は助けを求める。
「お出かけなのでお洒落な服を着たいと思ったのですが、組み合わせとか分からなくて……」
例のクローゼットにある服は、一点のみで見るとどれも素敵だ。
だがトップスとボトムスを自分のセンスで組み合わせ、髪型やメイクを……となると、荷が重い。
札幌で仕事をする時はパンツスーツ一択で、私生活では適当な服装で過ごしていたツケがきた。
「じゃあ、俺が選んでも大丈夫?」
「はい、ぜひお願いします!」
そのあと佑はハンガーの間に手を入れてアイテムを確認し、香澄の前に服を当ててあれこれ確認していた。
「今日は試着とかもしてもらうし、脱ぎ着しやすいという理由でワンピースにしよう」
言われて差し出されたのは、くすみピンクのワンピースだ。
首元はVネックで、ウエストは共布のベルトで留めるようになっている。
スカート部分は細かなプリーツになっていて、大人っぽさもありながら甘さもあるアイテムだ。
「その上に、これ」
フワッと渡されたのは、ボアが温かそうベージュのジャンパーだ。
そして赤身のある茶色い革製のクロスボディバッグも出され、完璧にコーディネートされる。
「このドレッサーの引き出しにも、使い回しできそうなアクセサリーを数点入れておいたんだけど……。何がいいかな」
そう言って佑は「開けるよ」と断り、引き出しを開ける。
香澄の私物も数点あるのだが、他に並んでいるセンスのいい物はすべて事前に入っていた物だ。
「そうだ」
彼は突然呟き、香澄に近付くとサラッと耳元の髪を掻き上げた。
「ひゃ……っ」
驚きとくすぐったさで肩をすくめると、佑が顔を近付けてくる。
(近……っ)
「……うん。穴、開いてないな」
最後にフニッと香澄の耳たぶを摘まんでから、佑はまたドレッサーの方に戻る。
(びっくりしたああああ!!)
さりげない接近術なのかと思っていたが、彼は真剣な顔でイヤーカフやイヤリングを手に取っては、香澄に向けている。
(……無意識か)
どうやらファッション関係になると、意識が集中してしまうようだ。
「これにしよう」
佑が差し出してきたので、香澄は掌を出す。
チャラッとのせられたのは、留め具の部分には大きなパールがあり、そこから幾つものクリアストーンがハート型になり、さらに大きなパールが下がっている物だ。
「わあ、可愛い」
無邪気に喜んだ香澄は、それがワンセット十万円近くするのを知らない。
もし知っていれば、生まれたての子鹿のように震えて佑に突き返していただろう。
さらにこの部屋のリネン類など、すでに揃えられている物もかなりの値段がする物なのだが、何も気付いていない。
無知の勝利である。
その後、佑が決めてくれたコーディネートに身を包み、出掛ける準備をした。
**
「改めまして、初めまして。運転手をしております、小金井勝也と申します」
今までチラッと顔を合わせていた運転手は、五十代前半の男性だ。
温厚そうな人で、にこやかに挨拶をされて香澄も会釈を返す。
「私も同じく運転手の、瀬尾和成と申します」
もう一人頭を下げたのは、佑と同い年ぐらいの男性だ。
口角がキュッと上がっていて、楽しげな表情を窺わせる。
二人に共通しているのは、既婚者。
そしていざという時にボディガードの役割も果たせるよう、一通りの体術は心得ている事だ。
他にも香澄の前には四人の男性が立っていた。
「私は小山内明と申します。ここにいる四人がメインとなる護衛ですが、チーフという事になっています」
小山内は四十代半ばの男性で、意志の強そうな顔立ちをしている。
身長は一七〇センチメートル少しだが、柔道などが強そうながっちりした体型だ。
「私は久住信司と申します」
端正な顔立ちをした久住は、三十歳そこそこぐらいで、香澄と歳が近そうだ。
少し神経質そうな印象を受けるが、その分仕事に隙がなさそうな感じがする。
(何となく、A型っぽいな)
香澄は印象だけで勝手な想像をした。
「私は呉代大輔と申します」
そう名乗った彼はベリーショートで、どことなく体育大学出身……という印象がある。
香澄の知る限り、偏見だが「だいすけ」という名前の男友達は、皆どこか豪快な性格をしていた。
だからかもしれないが、彼も明るくて社交的なのでは、と思った。
ちなみに彼も、年齢は香澄と近いのでは、という感じだ。
「私は佐野壱也と申します。最年少です」
佐野はまだ若さの残る感じで、二十代半ばほどだ。
まじめで、ひたむきな印象があり、きっと勤勉な人なのだろうな、という印象を抱く。
「今まで、四人でローテーションを組んでコンビを作ってもらっていたけど、これからは香澄にも二人体制でついてもらう。休みも確保しなければいけないから、人員を増す必要があるな。それは手を回しておこう」
車に乗り込む前に玄関で紹介を受け、香澄は頭の中で必死に顔と名前を結びつける。
今までの仕事の甲斐もあり、人の顔と名前を覚えるのは得意だ。
「どうぞ宜しくお願い致します」
ペコリと頭を下げると、彼らも微笑して会釈をしてくれた。
「普段、彼らは仕事柄サングラスをする事が多いけど、ビビらなくていいからな。『そういうもの』だと思っていて」
「分かりました」
あとから聞けば、表情や目線を読み取らせないためとか、何かを掛けられても目は守れるなど、メリットがあるらしい。
取りあえず今日は、小金井が運転する車の助手席に呉代が座り、後部座席に佑と香澄が座るらしい。
残る護衛の三人は、瀬尾が運転する車でついてくるそうだ。
乗り込んだあと、静かなエンジンの車は白金台の街を走ってゆく。
「ボディガードってやっぱりスーツが制服なんですか?」
「場所により、私服の場合もあるよ。物々しい護衛が必要な時もあれば、街中ではスーツを着ているとサラリーマンに紛れる事もできる。休日は私服とか、臨機応変かな」
「なるほど」
佑の返事を聞き、香澄は手をポンと打つ。
「……でも、護衛が必要になる場面なんてあるんですか? 日本って治安がいいって言われるので、あまり想像できないんですが」
香澄はつい、素朴な疑問を口にする。
「日本でも、人が大勢集まる所だと何が起こるか分からないから、用心のためだ。護衛なしに何かがあって大きな損失を出すより、転ばぬ先の杖として身の回りを固めておいた方がいい場合もある。海外出張も月に何回も行くから、結果的には彼らにいてもらって良かったと思っている。危険な目に何度も遭った訳じゃないけど、いるといないじゃ大きな違いだから」
「そうなんですね」
分からなかったので質問したが、もしかしたら佑クラスの経営者なら、護衛を雇っているのは当たり前の事なのかもしれない。
「慣れないと思うけど、守られる生活に慣れてほしい」
「……分かりました。なるべく、努力してみます」
この時の香澄は、自分が〝要人〟となった自覚はゼロだった。
だがそのうち、徐々に〝世界の御劔〟に選ばれた重圧や立場なども思い知っていく事になる。
**