【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 1
「俺は……、多分君に一目惚れしてしまった」
「ですが大人ですし、『嫌な事があるから逃げたい』なんて思いません。立ち向かわないといけない時は、誰にだってあるんですし」
そう言った時、佑が手を伸ばしてポンポンと香澄の頭を撫でてきた。
「あまりそうやって気負いすぎない方がいい。いつだって逃げていいんだから。赤松さんにもとても仕事を辛く感じて、辞めたいと思う時が来るかもしれない。その時は逃げてもいいんだ。人間は仕事のために生きている訳じゃない。店員は客の奴隷でもない。嫌な事は嫌だと言っていいんだよ」
「…………」
佑の言葉を聞いて、ふ……と胸の奥が軽くなった気がした。
仕事を辛いと思っていた訳ではないけれど、常に「頑張らないと」と思っていた気持ちが、少し和らいだ気がする。
「さすが、御劔社長ですね。言葉に重みがあります」
少し冗談交じりに言うと、佑も笑った。
「なるべく、ホワイト企業でありたいと思っているから。社員に無理はさせないように心がけている」
「そう言えば初夏の頃に、ホワイト企業の王者として今年も受賞していましたね。凄いです」
「ありがとう」
佑はハイボールを飲みながら、やがて運ばれてきた枝豆に手を伸ばす。
「……赤松さん」
「はい?」
気が付いたらプチプチと枝豆に夢中になっていた香澄は、声を掛けられて顔を上げる。
「君を引き抜いてもいいだろうか?」
「……ん?」
佑の言いたい事が分からず、香澄は今度こそ首を傾げた。
「八谷をやめて、うちに入社してほしい」
「…………」
佑の言った言葉を正確に理解するまで、口の中に残っていた枝豆を完全に咀嚼し、呑み込むまで時間が掛かった。
「どうしてですか? 私は飲食業界におりまして、アパレルには明るくありません」
「もし転職する機会があったとして、同じ飲食業界に行くとは限らないだろう? アパレルに来ても一からやれると思うんだ。というか、俺の秘書をやらないか?」
(変な人だ!)
さすがにその熱烈な勧誘に、香澄も異様さを感じた。
「秘書なんてできません。大変光栄なお話ですが、お断り申し上げます」
丁寧に頭を下げた香澄の両手を、テーブルを回り込んできた佑が握った。
「っ!」
(何なの!?)
大きく温かな手に手を握られ、信じられないぐらい綺麗な人に見つめられる。
不思議な色の目が香澄に必死に何かを訴え、形のいい唇は何かを言おうとして取り消す。
それでも、彼は決意したように一つ頷いてから、とんでもない事を言ってきた。
「俺は……、多分君に一目惚れしてしまった」
「……はい?」
最早何も言えず、香澄はポカーンとして手を握られるしかできない。
佑はテレビで見る余裕たっぷりの表情はどこかへ、落ち着かなく視線を泳がせ、唇を舐めては香澄を見つめてくる。
「……今まで、まともな恋愛をしてこなかった。だからこれが本当に恋なのか分からない。それでも、君とこれっきりなのは嫌だと言う気持ちは、自分の中でハッキリと分かっている」
「……あの、仰っている意味が分からないのですが」
「君が気になって堪らない」
香澄の手を握ったまま、佑が体を寄せてくる。
ソファに座っていた香澄は思わずズリ……とお尻を後ろに下げて後退するが、佑は隣に座ってさらに迫って来た。
「あの…………。大丈夫ですか?」
あの御劔佑が自分を気にするなど、あり得ない。
どこかに隠しカメラが回っていないか、香澄は個室内を見回した。
「真剣に言ってるんだ。俺は、君を一人の女性として意識している。出会ったばかりだから、すぐに無責任な事は言えないけど、一緒に過ごして自分の気持ちを確かめたい」
佑の目に込められた熱は凄まじく、見つめられているだけで穴が空きそうだ。
(この人、……本気? いや、東京の人の言う事なんて当てにならないし)
心の中で田舎者丸出しの事を思い、香澄はまず佑を落ち着かせる。
「おっ……落ち着きましょう。手を、離して、座りましょう」
握られていた両手をそっと上げて優しく佑の手を振りほどくと、彼の張り詰めていた熱が少し和らぐ。
「……すまない。我を失っていた」
「い、いいえ」
ぎこちない笑顔を向けると、佑も決まり悪く微笑み返し、もとの席につく。
それから彼はハイボールの残りを飲み干し、呼び出しボタンを押してスタッフに水割りを頼んだ。
それが届くまでの間、佑は何も話さない。
無言の中で、自分の感情を鎮めているように思えた。
(あぁ、びっくりした……)
香澄は唐揚げを一つ頬張り、口を動かしながら窓の外を見る。
窓ガラス越しに藻岩山の夜景を見ていたが、不意に意識して見る場所を変えると、自分と佑が映っているのに気付く。
見慣れた、その辺にいそうな女性と、高身長で美形の有名人。
(なんちゅー組み合わせだ)
また心の中で突っ込みを入れ、先ほど向けられた言葉について考えてみる。
(意識してるって……、御劔社長の周りになら、美女がゴロゴロいそうだけど……。特殊なタイプが好きなのかな。……いや、私、特殊っていう程じゃないけど、……地味専?)
そこまで考えて、少し悲しくなった。
やがて水割りが来て一口飲んでから、佑はまた話し出す。
「誤解しないでほしいのは、遊びでこんな事を言うほど暇じゃないという事だ」
「…………」
そう言われても、にわかには信じがたい。
「赤松さんは、きっと東京には芸能人や魅力的な女性が沢山いるだろうと思っている。それは否定しないが、俺はここ五年ほど特定の女性と付き合っていない。……まったく付き合いがなかったと言えば嘘になるが、誰の事も愛そうとしなかった。それは信じてほしい」
「……はい。……私も、ここ数年彼氏がいないですから、それは信じたいと思います」
彼の言葉の内容に合わせて返事をすると、佑の表情が少し柔らかくなる。
「彼氏はいないのか」
「はい」
「そうか……」
佑は急にニコニコしだし、ニヤつきを誤魔化すようにまた水割りを飲んだ。
(本気なのかな)
少しずつ信憑性が高くなってきたが、かといって受け入れられる訳がない。
「失礼ながら、東京にはいない感じの田舎娘だから、珍しく感じたのではないでしょうか?」
自分の事をそう表現するのは悲しいが、何でも持っている人が求めるのは〝珍しい〟物だと思う。
香澄は特別美人ではないし、モデルのようなスタイルでもない。
頭も特別良くない、日々ささやかに幸せでありたいと望む、普通の一般人だ。
「そういう話じゃないんだ。……こう言ったらまた疑われるけど、さっき席に君が来て挨拶をしてくれた時、直感を覚えた」
「直感、ですか」
「……頭の悪い言い方になるけど、ビビッと来たというか」
「…………はぁ……」
そういう感覚的な事を言われても、と香澄は生返事をする。
驚くべき事に、香澄はこの美形にここまで迫られていても、少しもその気になったり、「嬉しい」と感じていなかった。
あまりに非現実的で、まだどこかにカメラが回っているのではと疑っているからこそ、目の前で佑がお芝居をしているようにも感じている。
香澄の心の温度を察しているからこそ、佑もまた必死に自分が真剣なのだと説明しているのだと思う。
けれど彼の言う事が本当なら、恋愛が久しぶりなのでその感覚を上手に説明できないでいるのだろう。
(それは理解するんだけど……)
「……ごめん。意味が分からないよな。……俺もこんなに一人の女性を気にするのは久しぶりだから、自分でも分かっていない」
佑が苦笑いを浮かべ、香澄もつい笑う。
その後、彼はポツポツと先ほどの事を語り始めた。
「直感で『いいな』と思った女性が、本来そうではない姿をして、セクハラを受けているのを見て『許せない』と思った。君のバニーガール姿を見た瞬間、『他の誰にも見せたくない』とどす黒い感情が沸き起こった」
「あ……ありがとうございます……?」
言うべき言葉を見つけようとするが、良い言葉が分からない。
「君が八谷で誇りを持って働いているのは、尊重したい。君が八谷に骨を埋めたいと思うほどなら、無理をして離職させようと思わないし、東京の店舗という手もあるだろう」
(やっぱり東京に連れてくつもりなのかな)
「俺は何度札幌に通っても平気だ。仕事もあるから毎週とは約束できないが、できるだけ赤松さんと話して、君に俺の気持ちを理解してもらいたい」
「最終的には、何を望んでいますか?」
「さっきも言ったけど、東京のうちの会社で働いてほしい。可能なら、俺の秘書として側にいてほしい」
大企業の社長が、個人的に気に入った女性を秘書にしようなど、許されるのだろうか?
あまりに強すぎる想いに、香澄は眩暈すら覚える。
そう言った時、佑が手を伸ばしてポンポンと香澄の頭を撫でてきた。
「あまりそうやって気負いすぎない方がいい。いつだって逃げていいんだから。赤松さんにもとても仕事を辛く感じて、辞めたいと思う時が来るかもしれない。その時は逃げてもいいんだ。人間は仕事のために生きている訳じゃない。店員は客の奴隷でもない。嫌な事は嫌だと言っていいんだよ」
「…………」
佑の言葉を聞いて、ふ……と胸の奥が軽くなった気がした。
仕事を辛いと思っていた訳ではないけれど、常に「頑張らないと」と思っていた気持ちが、少し和らいだ気がする。
「さすが、御劔社長ですね。言葉に重みがあります」
少し冗談交じりに言うと、佑も笑った。
「なるべく、ホワイト企業でありたいと思っているから。社員に無理はさせないように心がけている」
「そう言えば初夏の頃に、ホワイト企業の王者として今年も受賞していましたね。凄いです」
「ありがとう」
佑はハイボールを飲みながら、やがて運ばれてきた枝豆に手を伸ばす。
「……赤松さん」
「はい?」
気が付いたらプチプチと枝豆に夢中になっていた香澄は、声を掛けられて顔を上げる。
「君を引き抜いてもいいだろうか?」
「……ん?」
佑の言いたい事が分からず、香澄は今度こそ首を傾げた。
「八谷をやめて、うちに入社してほしい」
「…………」
佑の言った言葉を正確に理解するまで、口の中に残っていた枝豆を完全に咀嚼し、呑み込むまで時間が掛かった。
「どうしてですか? 私は飲食業界におりまして、アパレルには明るくありません」
「もし転職する機会があったとして、同じ飲食業界に行くとは限らないだろう? アパレルに来ても一からやれると思うんだ。というか、俺の秘書をやらないか?」
(変な人だ!)
さすがにその熱烈な勧誘に、香澄も異様さを感じた。
「秘書なんてできません。大変光栄なお話ですが、お断り申し上げます」
丁寧に頭を下げた香澄の両手を、テーブルを回り込んできた佑が握った。
「っ!」
(何なの!?)
大きく温かな手に手を握られ、信じられないぐらい綺麗な人に見つめられる。
不思議な色の目が香澄に必死に何かを訴え、形のいい唇は何かを言おうとして取り消す。
それでも、彼は決意したように一つ頷いてから、とんでもない事を言ってきた。
「俺は……、多分君に一目惚れしてしまった」
「……はい?」
最早何も言えず、香澄はポカーンとして手を握られるしかできない。
佑はテレビで見る余裕たっぷりの表情はどこかへ、落ち着かなく視線を泳がせ、唇を舐めては香澄を見つめてくる。
「……今まで、まともな恋愛をしてこなかった。だからこれが本当に恋なのか分からない。それでも、君とこれっきりなのは嫌だと言う気持ちは、自分の中でハッキリと分かっている」
「……あの、仰っている意味が分からないのですが」
「君が気になって堪らない」
香澄の手を握ったまま、佑が体を寄せてくる。
ソファに座っていた香澄は思わずズリ……とお尻を後ろに下げて後退するが、佑は隣に座ってさらに迫って来た。
「あの…………。大丈夫ですか?」
あの御劔佑が自分を気にするなど、あり得ない。
どこかに隠しカメラが回っていないか、香澄は個室内を見回した。
「真剣に言ってるんだ。俺は、君を一人の女性として意識している。出会ったばかりだから、すぐに無責任な事は言えないけど、一緒に過ごして自分の気持ちを確かめたい」
佑の目に込められた熱は凄まじく、見つめられているだけで穴が空きそうだ。
(この人、……本気? いや、東京の人の言う事なんて当てにならないし)
心の中で田舎者丸出しの事を思い、香澄はまず佑を落ち着かせる。
「おっ……落ち着きましょう。手を、離して、座りましょう」
握られていた両手をそっと上げて優しく佑の手を振りほどくと、彼の張り詰めていた熱が少し和らぐ。
「……すまない。我を失っていた」
「い、いいえ」
ぎこちない笑顔を向けると、佑も決まり悪く微笑み返し、もとの席につく。
それから彼はハイボールの残りを飲み干し、呼び出しボタンを押してスタッフに水割りを頼んだ。
それが届くまでの間、佑は何も話さない。
無言の中で、自分の感情を鎮めているように思えた。
(あぁ、びっくりした……)
香澄は唐揚げを一つ頬張り、口を動かしながら窓の外を見る。
窓ガラス越しに藻岩山の夜景を見ていたが、不意に意識して見る場所を変えると、自分と佑が映っているのに気付く。
見慣れた、その辺にいそうな女性と、高身長で美形の有名人。
(なんちゅー組み合わせだ)
また心の中で突っ込みを入れ、先ほど向けられた言葉について考えてみる。
(意識してるって……、御劔社長の周りになら、美女がゴロゴロいそうだけど……。特殊なタイプが好きなのかな。……いや、私、特殊っていう程じゃないけど、……地味専?)
そこまで考えて、少し悲しくなった。
やがて水割りが来て一口飲んでから、佑はまた話し出す。
「誤解しないでほしいのは、遊びでこんな事を言うほど暇じゃないという事だ」
「…………」
そう言われても、にわかには信じがたい。
「赤松さんは、きっと東京には芸能人や魅力的な女性が沢山いるだろうと思っている。それは否定しないが、俺はここ五年ほど特定の女性と付き合っていない。……まったく付き合いがなかったと言えば嘘になるが、誰の事も愛そうとしなかった。それは信じてほしい」
「……はい。……私も、ここ数年彼氏がいないですから、それは信じたいと思います」
彼の言葉の内容に合わせて返事をすると、佑の表情が少し柔らかくなる。
「彼氏はいないのか」
「はい」
「そうか……」
佑は急にニコニコしだし、ニヤつきを誤魔化すようにまた水割りを飲んだ。
(本気なのかな)
少しずつ信憑性が高くなってきたが、かといって受け入れられる訳がない。
「失礼ながら、東京にはいない感じの田舎娘だから、珍しく感じたのではないでしょうか?」
自分の事をそう表現するのは悲しいが、何でも持っている人が求めるのは〝珍しい〟物だと思う。
香澄は特別美人ではないし、モデルのようなスタイルでもない。
頭も特別良くない、日々ささやかに幸せでありたいと望む、普通の一般人だ。
「そういう話じゃないんだ。……こう言ったらまた疑われるけど、さっき席に君が来て挨拶をしてくれた時、直感を覚えた」
「直感、ですか」
「……頭の悪い言い方になるけど、ビビッと来たというか」
「…………はぁ……」
そういう感覚的な事を言われても、と香澄は生返事をする。
驚くべき事に、香澄はこの美形にここまで迫られていても、少しもその気になったり、「嬉しい」と感じていなかった。
あまりに非現実的で、まだどこかにカメラが回っているのではと疑っているからこそ、目の前で佑がお芝居をしているようにも感じている。
香澄の心の温度を察しているからこそ、佑もまた必死に自分が真剣なのだと説明しているのだと思う。
けれど彼の言う事が本当なら、恋愛が久しぶりなのでその感覚を上手に説明できないでいるのだろう。
(それは理解するんだけど……)
「……ごめん。意味が分からないよな。……俺もこんなに一人の女性を気にするのは久しぶりだから、自分でも分かっていない」
佑が苦笑いを浮かべ、香澄もつい笑う。
その後、彼はポツポツと先ほどの事を語り始めた。
「直感で『いいな』と思った女性が、本来そうではない姿をして、セクハラを受けているのを見て『許せない』と思った。君のバニーガール姿を見た瞬間、『他の誰にも見せたくない』とどす黒い感情が沸き起こった」
「あ……ありがとうございます……?」
言うべき言葉を見つけようとするが、良い言葉が分からない。
「君が八谷で誇りを持って働いているのは、尊重したい。君が八谷に骨を埋めたいと思うほどなら、無理をして離職させようと思わないし、東京の店舗という手もあるだろう」
(やっぱり東京に連れてくつもりなのかな)
「俺は何度札幌に通っても平気だ。仕事もあるから毎週とは約束できないが、できるだけ赤松さんと話して、君に俺の気持ちを理解してもらいたい」
「最終的には、何を望んでいますか?」
「さっきも言ったけど、東京のうちの会社で働いてほしい。可能なら、俺の秘書として側にいてほしい」
大企業の社長が、個人的に気に入った女性を秘書にしようなど、許されるのだろうか?
あまりに強すぎる想いに、香澄は眩暈すら覚える。