断る――――前にもそう言ったはずだ
(今度は大丈夫、よね?)


 エルネストをじろじろ見たりしていないし、お辞儀の角度等、些細なことにも気を配っている。
 彼の機嫌を損ねていないと思いたい。祈るような気持ちで、モニカは頭を下げ続ける。


「珍しいですね……殿下が自ら夜会に赴くとは」

「気が向いたんだ。
なあ、ロべーヌ――――少しの間、モニカと二人きりにしてくれないか?」

(へ?)


 けれど、頭上から聞こえてきた思わぬセリフに、モニカは静かに顔を上げる。

 見ればエルネストは、こちらを真っ直ぐに見つめていた。その瞳は相変わらず冷たいが、モニカは何故かドキリとしてしまう。


「もちろんでございます。
モニカ、くれぐれも殿下に失礼のないようにな」

「はい、お父様」


 正直、父親が居なくなるのは心もとない。けれど、そうと伝えるわけにもいかない。

 モニカは微笑みを浮かべつつ、去りゆく父親の背中を見送った。
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