断る――――前にもそう言ったはずだ
「殿下がロべーヌ宰相の娘をダンスに誘った」

「エルネスト殿下が令嬢に興味を示された!」


 エルネストの結婚問題は、国中の貴族たちの関心の的。
 彼らは密かに二人の会話に聞き耳を立てていたのである。


(殿下にそんなつもりはないと思うけれど)


 戸惑いながら、モニカがエルネストの手を握り返す。
 今や会場中の視線が、二人に向かって注がれていた。


「エルネスト殿下……あの、僭越ながら、一言申し上げてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「この場でわたくしとあまり関わり合いにならない方が良いのでは?」


 モニカは言いながら声を潜める。
 エルネストは片眉を上げつつ「何故そう思うんだ?」と尋ねた。


「皆様に誤解されてしまいます。殿下の結婚相手について、興味がお有りのようですから」


 好いている相手とならばともかく、モニカとの間に変な噂が立つのは嫌だろう。モニカはエルネストのことを思えばこそ、そう口にする。


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