断る――――前にもそう言ったはずだ
「心配ない。全て承知した上で動いている」


 エルネストはそう言うと、モニカのことを抱き寄せた。これまでで一番距離が近い。
 宝石のように美しく透き通ったエルネストの瞳。息をするのも忘れて、モニカはついつい見入ってしまった。


(いけない。こんな風に見つめては、また殿下の機嫌を損ねてしまうわ)


 それでも、少し気を抜くだけでエルネストのことを見てしまう。
 心臓がドキドキと早鐘を打つ。
 身体中が熱く、火照っているかのようだ。


 やがて曲が始まり、二人はステップを踏みはじめた。

 エルネストのリードは分かりやすく、とても踊りやすい。身体を動かしているため会話の心配をする必要がなく、モニカは幾分気が楽だった。


「――――モニカはダンスによく誘われるのか?」


 けれど、そう思ったのも束の間。
 エルネストがまた質問をしてくる。


「よく……という程ではないと思いますが、それなりに。これでも宰相の娘ですもの」


 偉い人間――――宰相に取り入ろうと考える人間は多い。娘であるモニカに近寄ることもまた、アプローチの方法の一つなのだ。


「そうか」


 エルネストの腕に力がこもる。彼は眉間にシワを寄せ、不機嫌そうにため息を吐いた。


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