断る――――前にもそう言ったはずだ
 エルネストはモニカのことを一瞥すると、誰と会話をするでもなく、そのまま夜会会場を後にした。

 ピンと張り詰めた空気が、一気に緩む。
 モニカはほっと胸を撫で下ろした。


「モニカ! 殿下とは一体何を……」

「お父様」


 慌てた様子でやって来た父親に、エルネストとの会話の内容を伝える。
 モニカの父親は時折険しい表情を浮かべつつ、一人静かに首を捻った。


「申し訳ございません、お父様。殿下の気分を害してはいけないと分かっていたのですが……どうにもわたくしは、彼のお気に召さないようで」

「いや、良いんだ。しかし……」


 良い、と口にしつつも、父親の表情はどこか浮かばない。
 今後の仕事に影響するのではなかろうか――――申し訳無さでいっぱいだった。

 モニカは肩を落としつつ、己の手のひらをじっと見る。
 今も未だ、エルネストのぬくもりが残っている気がした。


(もう二度と、殿下とダンスを踊ることはないんだろうな)


 ほんの数分間の出来事だが、一生忘れられないほろ苦い思い出になりそうだ。
 モニカはため息を一つ、エルネストと踊ったホールを見遣る。


 けれど、それから数日後。
 モニカは父親と共に、エルネストと彼の両親から呼び出しを受けることになる。


 そこで言い渡されたのは、彼女にとって驚くべき内容だった。 
< 17 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop