断る――――前にもそう言ったはずだ
***


 結婚を了承した後、モニカはエルネストの私室へと通された。

 重厚で落ち着いた印象の部屋の真ん中、ソファに座るよう促される。

 躊躇いながらも腰掛ければ、侍女がすぐにお茶を運んできた。
 彼女たちはあっという間に紅茶と茶菓子をセッティングし、光の速さで部屋から出ていってしまう。


(ここに居てくれて良かったのに……)


 横たわる重苦しい空気。両者とも、しばし無言を貫く。
 耐えきれず、先に沈黙を破ったのは、モニカの方だった。


「殿下、此度のことは……」

「僕のことは名前で呼んでくれないか?」

「え?」


 本題を切り出すより先に、ひょんな事を言われてしまい、モニカは思わず目を丸くする。


「正式な婚約はまだだが、僕たちは婚約、結婚をするんだ。今後は名前で呼び合うべきだろう?」

「え、と……はい、エルネスト様」


 正直、婚約の件だって未だ腑に落ちていないのだが、このままでは話を先に進められない。
 躊躇いながらも、モニカはエルネストの名前を呼んだ。彼は『それで良い』といった面持ちで、悠然とこちらを見つめている。
 モニカは気を取り直し、そっと身を乗り出した。


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