断る――――前にもそう言ったはずだ
「――――元気にしていたか」

「――――はい、おかげさまで」


 まるで数年間会っていなかった他人のような挨拶。ジュリーは苦笑を漏らしつつ、静かに部屋を後にする。

 
「結婚式まで、あと少しだな」

「はい、エルネスト様。今日は衣装の調整を行いました。繊細な刺繍がとても美しかったです」

「そうか」

「…………」


 毎日繰り返される似たような会話。共通点が少ない上、生活を共にしているわけでもないから話題が広がらないのは仕方がない。モニカとて広げるための努力はしているが、エルネストはいつも不機嫌そうだし、必要以上に懐に踏み込むことができないのだ。


(だけど、エルネスト様はこれで良いのかしら?)


 モニカよりもエルネストの方が余程多忙だ。貴重な時間をわざわざモニカのために割いてもらう必要はない。


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