断る――――前にもそう言ったはずだ
「……! モニカ、こちらに移動しなさい」


 宰相が言う。モニカが視線を上げれば、誰かがこちらに向かってくるのが見えた。宰相且つ公爵である父親が道を譲るということは、目上の者――――王族なのだろう。
 モニカは急いで宰相の後に続き、ゆっくりと静かに頭を下げる。


「おはよう、ロべーヌ」

「おはようございます、エルネスト殿下」


 頭上で挨拶が交わされる。
 相手はこの国の王太子であるエルネストらしい。


(王族って、もっと近寄りがたい存在だと思っていたけど)


 明るく気さくな雰囲気。顔は見えないが、モニカはすぐに好印象を抱く。
 父親の小間使いであるモニカがエルネストと接する機会は殆ど無いだろうが。


「ところで、お前が女性を連れているなんて、はじめてじゃないか? こんなところで浮気など、愛妻家の名が泣くぞ?」


 けれどその時、エルネストがモニカの存在に言及した。揶揄するような声音。モニカは思わずドキリとする。


「ハハ、そんなまさか。こちらは私の娘でございます。
さあ、モニカ。ご挨拶を」


 父親に促され、モニカは恐る恐る顔を上げる。
 その途端、彼女は静かに息を呑んだ。


< 3 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop