断る――――前にもそう言ったはずだ
「僕に触れられるのは嫌か?」


 思いがけぬ問い掛け。
 モニカは目を丸くし、エルネストのことを見つめ返す。

 しばしの沈黙。
 モニカはゆっくりと首を横に振った。


「いいえ、エルネスト様。わたくしは嫌ではございません」


 寧ろ、嫌なのは貴方の方では――――? 
 そう尋ねなかっただけ、モニカは自分を褒めてやりたい。

 エルネストはその時、眉間に深く皺を刻み、不服げに唇を尖らせていたのだから。


「そうか」


 はぁ、と深い溜め息を一つ、エルネストはモニカの唇を塞ぐ。
 義務的な交わり。
 モニカは今度こそしっかりと、開かないように目を瞑った。


「モニカ」


 エルネストの声が聞こえる。


 冷ややかな瞳で己を見下ろすエルネストの姿を見たくない。
 愛情の欠片も感じられない冷たい肌の感触に気づかないふりをしたい。

 けれど、時折聞こえる彼の吐息が、モニカを呼ぶ声が、彼女の心を大いに掻き乱す。


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