断る――――前にもそう言ったはずだ
◇◆◇


 一方その頃、エルネストは自身の執務室で妻――――モニカへの想いに浸っていた。


(モニカ……)


 彼女とのやりとり、表情を思い返すだけで、エルネストの胸は甘く疼く。

 エルネストを惹きつけてやまない愛らしい笑顔。
 妃となった後でも常に周囲に気を配り、崩すことのない謙虚で礼儀正しい姿勢。
 公務にも意欲的で、当然ながら周囲からの評判もすこぶる良い。

 エルネストにとって、モニカは自慢の妻だった。


 おまけに、モニカはいつだってエルネストのことを大切にしてくれる。エルネストのことを想ってくれる。
 エルネストはそれがたまらなく嬉しかった。


 エルネストがモニカよりも早く起きるのは、モニカの寝顔を独占し、思う存分堪能したいからだ。
 先に準備を始めないのは、少しでも彼女と一緒に居たいからだし、朝食の席に一緒に向かわないのは、モニカの準備を急かしたくないからだ。


 けれど、モニカは健気にも、エルネストよりも早く起きようと努力をし、彼のことを気遣ってくれる。朝食が早く取れるようにと急いで準備をしてくれるし、いつも柔らかな笑みを見せてくれる。


(愛しい)


 初めて会ったその時から、エルネストはモニカの虜だった。
 もう一度会いたくて、好きでもない夜会に顔を出してしまうほど、モニカに恋い焦がれていた。

 一度目は『予感』程度だった想いは、二度目に会った時には『確信』へと変わっていき。

 エルネストの結婚を急いでいた王家の意向もあって、あっという間に婚約、結婚へと話を進めてしまったのである。


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