断る――――前にもそう言ったはずだ
***


 その頃、コゼットは久しぶりに城を出て、王都に有る自身のタウンハウスに居た。

 
「お久しぶりです、お父様」

 
 数カ月ぶりの父娘の再会。コゼットの父親であるカステルノー伯爵は娘を抱き締め、やがて小さくため息を吐く。


「あら、折角の愛娘との再会ですのに。ご機嫌斜めですの?」

「機嫌も悪くなるさ……今日は思う存分妃に嫌味を言ってやるつもりだったのに、いつの間にか面会者がすり替わっているのだから」


 エルネストの読みどおり、今日の王城訪問は、モニカに対して揺さぶりをかけるために設定されたものだった。
 子ができないことを責められた彼女が、エルネストに対して側妃を勧める――――そうして、コゼットを側妃に押し込むというのが、彼が作った筋書きだったのだが。


「それで、エルネスト殿下には直接側妃を勧めましたの?」

「勧めたとも――――勧めているとも! だが、あの男は存外頑固だ。本当ならばコゼットが正妃になるべきだというのに。実に忌々しいことだ」


 カステルノー伯爵はそう言って、拳をギュッと握りしめる。


 数年前、コゼットはエルネストの婚約者候補の一人だった。
 若く、美貌や教養面に優れており、父親の権力もある。かなり有力な立ち位置に居たものの、結局、後から現れたモニカにあっという間に全てを持っていかれてしまった。

 以来、折を見て側妃を勧め続けているが、エルネストが伯爵の提案に頷くことはない。
 カステルノー伯爵は深いため息をついた。


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