断る――――前にもそう言ったはずだ
 けれどその日以降、コゼットはモニカに会う度に、ひどく申し訳無さそうな表情を浮かべるようになった。

 お茶を出す時も、着替えの最中も。
 何をしていなくとも、彼女の視線を感じてしまう。


 二人きりにならないほうが良いと判断したのだろう。朝のお茶は、コゼットとは別の侍女が出すようになった。

 それでも、コゼットはモニカの専属侍女。接点を完全に断つことはできない。

 仕事に集中できないなら配置換えをした方が良いかも知れない――――そう思ったものの、彼女は由緒ある伯爵家の令嬢。城には箔をつけるために通っているのだし、簡単には動かすことができなかった。


 そんなことがあった数日後のこと。


「妃殿下!」


 公務の合間に、誰かがモニカを呼び止める。


(誰かしら?)


 王太子妃である彼女を呼び止められる相手は、身分や役職が余程高いか、礼儀を知らぬものだけ。
 モニカはそっと振り返りつつ、すぐに相手を確認する。


「カステルノー伯爵……ご無沙汰しております」


 そこにいたのは、先日面会をするはずだった三人の内の一人で、侍女であるコゼットの父親だった。

 恰幅のいいたぬきのような男性で、経済界のドン。その上彼は、剣や鎧の製造を主要事業にしているため、軍事への影響力も大きい。王家が無視できない存在である。


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