断る――――前にもそう言ったはずだ
「いやぁ、本当にお久しぶりです。
先日は妃殿下にお目見えできるのを楽しみにしていたのですが、エルネスト殿下にご対応いただけるということで……お会いできず、残念に思っておりました」

「まぁ……伯爵にそんな風に思っていただけていたなんて、光栄ですわ。あの日は急遽外せない予定が入り、夫に無理を言ってしまいました。わたくしとしても、伯爵にお会いできず、とても残念に思っておりましたわ」


 本当のことを言って、エルネストを悪者にするわけにはいかない。
 嘘も方便。
 モニカは申し訳無さげに眉を下げる。


「そうでしたか。それでは、今から少しお時間をいただいても?」

「今から……」


 後ろに控えた侍女の一人にチラリと目配せをすれば『少しならば』と返事が返ってくる。
 今断っても、後日しつこく付き纏われるに違いない。


「あまり時間は取れませんが、それでもよろしければ」

「それで結構。是非、お話をさせてください」


 モニカの返答に、伯爵はニコリと微笑んだ。


< 49 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop