断る――――前にもそう言ったはずだ
「それで伯爵、本日はどういったご用向でしょう?」


 気を取り直して、モニカが尋ねる。
 エルネストでは飽き足らず、わざわざモニカと話したがる時点で、内容については予想がついているのだが。


「いえね、そろそろ妃殿下の体調に変化が生じる頃ではなかろうかと……ほら、国の慶事とあらば、伯爵家として、盛大にお祝いをしなければなりませんから」

(早速来たわね)


 モニカはニコリと微笑みつつ、心のなかで伯爵を睨む。


 控えめなコゼットとは異なり、伯爵は大層な野心家だ。娘を側妃に添えたがっていることぐらい、モニカにも分かる。

 彼はいつも、直接的な言葉を避け、遠回しに不妊に対する嫌味を言い、モニカからエルネストに側妃を勧めるべきだと伝えてくるのだ。


 当然モニカは傷つく――――かと思いきや、これが案外平気だったりする。
 ここまで露骨で分かりやすいと、かえって心の準備がしやすい。適当に話を合わせてスルーすることができるのだ。


「お気遣いいただき、ありがとうございます。おかげさまで、夫婦ともども健康体。皆様のお心を煩わせることはございませんわ」


 絶妙に話を逸しつつ、モニカはそっと笑みを浮かべる。


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