断る――――前にもそう言ったはずだ
(エルネスト様が?)


 彼がモニカを想っていないことは明白で。
 本当だったら、驚くことなどなにもないのかもしれない。

 それでも、モニカはとてもショックだった。


 エルネストと側妃について話そうとしたのはつい数時間前のこと。
 その時にコゼットのことを打ち明けてくれていれば、ここまでショックは受けなかったかも知れない。

 返す言葉が見つからないモニカをよそに、コゼットが申し訳無さそうに口を開いた。


「殿下は毎日、私に会うたび『可愛い』『愛しい』と仰るんです。『君を見ていると自然と笑顔になれる』、『毎日が楽しい』って。
けれど、私は妃殿下の侍女。エルネスト殿下の想いに応えるわけにはいかないでしょう? ですから、どう反応すべきか、とても困ってしまって……」

「エルネスト様がそんなことを……?」


 『可愛い』に『愛しい』?
 そんなこと、モニカは当然言われたことがない。

 彼女に与えられるのは、とてもぶっきら棒な「おはよう」と「おやすみ」の言葉だけ。エルネストの笑顔を見れるのだって、彼が他人に対して微笑んでいるときだけだ。


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