断る――――前にもそう言ったはずだ
(でも待って)


 今、彼に尋ねるべき大きな疑問が存在する。
 モニカは身を乗り出した。
 

「ねえ、ヴィクトルはどうして、エルネスト様が今、侍女と過ごしていると知っているの? わたくしは貴方に『今夜はここで休む』としか伝えていないはずよ?」

「え? それは……その、」


 ヴィクトルは途端に視線を逸らす。彼が言葉を濁しているすきに、モニカは出口に向かって必死に走った。
 けれど、外に出ようとしたところで、ヴィクトルがモニカに追い付いてしまう。彼は背後から勢いよく扉を閉めた。


「ダメですよ、妃殿下。貴女には俺と既成事実を作っていただかなければ。不貞行為を働いたという事実をね」

「コゼットを正妃にするために? 貴方、自分が何をしようとしているか分かっているの⁉ 下手すれば、命を落とす可能性だってあるのよ⁉」


 モニカには二人がどういう関係かはわからない。普段二人が会話を交わしているところだって見たことがない。

 だけど、彼が今、コゼットのために動いていることは確かだ。
 でないと、ヴィクトルが今夜のことを知っている説明がつかない。

 モニカは一生懸命、ヴィクトルの理性に働きかける。
 けれど、ヴィクトルは首を横に振りつつ、モニカの手首を強く掴んだ。


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