断る――――前にもそう言ったはずだ
「命を落とす、ですか……ふふっ。それ、本気で言っていらっしゃいます?」

「え……?」

「だって、考えても見てください。心底嫌っている妃のために、王太子殿下はそこまでするでしょうか? 寧ろ、厄介払いができたとお喜びになるのではありませんか?」


 馬鹿にしたような笑み。言葉の刃が胸を突き刺す。


(違う)


 エルネストは確かに冷たい。
 モニカに微笑んでくれることはなかったし、言葉の節々に棘があった。

 けれど、彼はモニカがこんな形で居なくなって、喜ぶ人ではないはずだ。
 絶対、違う。


「誰か……! ポール、そこに居るの⁉ お願い、助けて!」

「無駄ですよ。ポールは今、薬で眠ってもらっています。彼には後で俺たちの既成事実の証人になって貰う予定です。
それから、周辺の騎士たちには貴女の声は届きません。カステルノー伯爵様の采配で、今夜はこの部屋には近寄らないようになっていますから」

「嘘……」


 カステルノー伯爵はそこまでして、自分の娘を妃に据えたかったのだろうか? モニカは言葉を失ってしまう。


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