断る――――前にもそう言ったはずだ
「ヴィクトルは? 貴方はどうしてこんなことを?」


 気を取り直し、モニカはヴィクトルにそう尋ねる。彼は無表情のまま、ゆっくりと静かに頭を垂れた。


「――――主家の意志を実行するのは当然のことです」

「主家……貴方がカステルノー家の分家筋だから、ということ?」


 普段饒舌なヴィクトルらしくない、短くて簡潔な返答。モニカが内容を補足するべく尋ねれば、彼は小さく頷いた。


「そんな……自分の命を投げ出してまで主家の命令に従うの? 本当に、そんなことのためにわたくしを襲おうとしたの?」


 彼が作り上げようとしたのは、王太子妃の不貞の証拠。
 謀反の全容が露見しても、しなくても、ヴィクトルは命の危機に晒される必要があった。

 成功すれば無罪放免だったカステルノー父娘とは根本的に異なっている。モニカはどうしても納得がいかない。


「当然のことですよ……だって、愛する女性の願いを叶えるためですから」


 ヴィクトルはそう言って穏やかに微笑む。
 彼の言葉にコゼットがハッと顔を上げ、それから瞳を潤ませた。


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