断る――――前にもそう言ったはずだ
***


 父親とそんな会話を交わした数日後、モニカはとある夜会に出席した。

 婚約相手を探すために開かれる若年層向けの夜会とは異なり、父親や母親世代が多く集った社交の場。普段は領地で暮らす貴族なども、多く訪れている。

 将来女官として働きたいモニカにとって、彼らとの関係を良好に保つのは重要だ。
 父親について周り、たくさんの貴族たちに挨拶をする。

 公爵令嬢の割に控えめで、謙虚な印象のモニカを、彼らは快く受け入れてくれた。


(良かった。エルネスト殿下のような反応をされるのではと心配していたけど)


 彼女の礼儀作法が特別間違っているわけではないらしい。モニカはホッと胸を撫で下ろす。


 けれどその時、会場がにわかにざわついた。


「殿下だ……」

「エルネスト殿下がお出ましに……」


 耳を突くささやき声。モニカは静かに息を呑む。


(エルネスト殿下がここに⁉)


 モニカの中で、初対面でのやりとりが尾を引いている。
 これ以上彼に嫌われたくない。エルネストに取り入ろうと集まっていく貴族たちとは反対に、モニカはこの場から逃げ出したくなった。


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