断る――――前にもそう言ったはずだ
***



 それから十ヶ月後のこと。
 モニカは元気な男児を出産した。


「あぁ……モニカに似て、とても可愛いな」


 エルネストは、これまでの冷たい表情が嘘のように、優しい表情を浮かべている。
 彼は日に数度はモニカへの愛を囁き、毎日モニカを抱き締めて眠る。


 はじめは言葉も行動もぎこちなかったけれど、少しずつ 少しずつ、こうしていることが自然になり、今ではすっかり当たり前になった。
 彼は伝えたくて伝えられなかった三年分の愛情を、今、モニカに注いでいるのだという。


「エルネスト様、今夜こそ寝室を分けたほうが良いのではございませんか?」


 出来る限り自分で子育てをしたいというモニカの意向で、二人は生まれたばかりの子どもと寝所を共にしている。

 はじめての育児は、慣れないことの連続。
 当然、夜泣きもあるし、夜間におしめを替えたり、授乳をする必要だってある。

 このため、寝室を分けようとしているのは、多忙なエルネストがよく眠れるようにという配慮だ。


「断る――――前にもそう言ったはずだ」


 エルネストはそう言って、とても穏やかな笑みを浮かべる。


 数ヶ月前、寝室を分けることを提案した時と全く同じ言葉。
 けれど、あの頃とは感じ方が全く異なる。


「わたくしも、エルネスト様と一緒に居たいです」


 二人は微笑み合いながら、互いをきつく抱きしめるのだった。




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