堅物の軍人貴族は若妻を愛してやまない
「久しぶりねクシェル。グラウブ様はまだいらっしゃるの?」
「お久しぶりです、お姉さま。申し訳ありません、グラウブ様は先ほどご出立されました」
「まぁ。早いのね。さすが勤勉と称されるグラウブ様だわ」

フロレンティーナは露骨に不満そうな口調になった。
グラウブに会うのが目的で、クシェルなど眼中にないという考えが見え見えだった。

とは言っても、さっさと退席してしまうのもあからさまだと思ったようで。

「グラウブ様との結婚生活はどう?」
「はい。とても良くしてくださって、充実しています」
「まぁ、それは良かったわ。さぞかし幸せなのでしょうねぇ」

「はい」とクシェルは小さく頷いた。

「そりゃあそうよねぇ。グラウブ様は軍神とも称されるこの国きっての勇将。それでいて見目麗しく気品あふれる貴族でもあらせられる。国中の女達の憧れの的だったのよ」

「だった」という過去形に意味深な重圧を感じて、クシェルは下を向いたまま頷くしかなかった。
< 4 / 35 >

この作品をシェア

pagetop