※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「三船さん、本当に災難だったね。変なことに巻き込まれて……」
木藤など紗良は完全にとばっちりをくったものだと同情的だった。
不貞行為の真偽はともかく、静流が紗良の家で寝起きしているのは間違いなく事実だ。だからこそ余計に良心が痛む。
静流が紗良の部屋から出てこなかった理由を説明するには、二人がルームシェアをしていることを明らかにしなければならない。しかし、そうなると静流が妻帯者であることと辻褄が合わなくなる。
あちらを立てればこちらが立たず。今のところ良い解決策は思いつかず、八方塞がりだ。
(静流さん……大丈夫かな?)
紗良はどちらかといえば自分のことよりも静流の様子が心配だった。
昨晩も静流は心ここにあらずの状態で夕食を食べていた。単に咀嚼を繰り返しているだけの機械的な行為はとても食事を楽しんでいるようには見えなかった。食後のお紅茶にもほとんど手をつけない。
初めて会った日のようにどこか虚ろで思いつめている。
実際、家にいる時も仕事中も何かを考え込む時間が増えていた。