※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「そう固くならないでいい。大体の事情は静流から聞いている」

 専務は紗良の向かい合うようにソファに腰掛けると流れるように足を組み、肘掛に頬杖をついた。トントンと何かを考えるようにこめかみを叩く人差し指。何もかもを見透かすようにように揺れるダークブラウンの双眸。
 静流が煌陽にやってくる前は女性社員からの人気ナンバーワンとの呼び声も高かった専務の仕草に紗良はしばし見惚れていた。

「あの……。大体の事情と言いますと……」
「静流をこの会社に入れたのは私だよ。当然、あいつが未婚なことも、君と一緒に暮らしていることも知っている」

 木藤が言っていたヘッドハンティングの噂は本当だったのか。

「失礼ですが、専務と静流さんはどういった御関係で……?」
「静流から聞いていないのかい?私はね、彼の幼馴染でもあり義理の兄なんだよ。私の妻が彼の姉でね。その縁もあって静流を煌陽に呼んだんだ」

(義理の兄!?)

 思っていたよりも近しい関係性に衝撃を受ける。
 未婚を隠すためのコネがあるとはそういうことだったのか。
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