※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「君が静流と不倫しているというデマのことは気にしなくていい。君には一切の非はないし、会社として処分を下すこともしない。それを伝えたくてわざわざ呼び出したんだ」
「お気遣いありがとうございます」
専務直々に呼び出されたこともあり、緊張で強張っていた身体の力が抜けて行くようだった。
専務の口から無罪放免だと明言してもらえたのは助かった。社内の風紀を保つという意味で不品行が解雇事由になることは十分にあり得たからだ。
紗良の緊張が解けるやいなや専務は微笑を浮かべ義弟の同居人のプライベートに立ち入った。
「どう?静流とは上手くやっている?融通もきかないし、今ひとつ面白みに欠ける男だろう?あいつは昔からそうなんだ」
あからさまに静流のことを貶され紗良はちょっとムッとした。たとえ専務といえども、静流の人柄を否定するような発言は到底看過できない。
「あのっ!!全然そんなことはないです。静流さんには私の方がお世話になりっぱなしなんです!!」
専務は威勢よく反論した紗良に目をパチクリとさせた。しかし、それも一時のことだった。
「静流のことをこれからもよろしくね、三船紗良さん」
(もしかして……試されていた……?)
応接室から戻る途中、紗良は専務がわざと静流を貶したのではないかということに思い至った。本当に静流のことを気に食わないと思っていたら、わざわざ自分の会社に入社させるはずがない。
果たして紗良は専務のお眼鏡に適ったのだろうかと、一抹の不安がよぎる。
しかし、なにはともあれ紗良にとって専務が味方ということは安心材料のひとつになった。