※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「私は紗良さんが好きなんだと思います」
紗良を見る静流の目が眩しそうに細められていく。熱いものが迸るその瞳に目が釘付けになった。
(好き……?誰が……誰を?)
「片岡の問題に蹴りがついて直ぐにこんなことを言い出すなんて自分でも節操がないと思っています。ですが、このまま東京に帰ったら伝える機会がなくなってしまうような気がして……」
何が起こったのか把握できないうちに静流が矢継ぎ早に言葉を放っていく。
「ルールうんねんの前に自分に想いを寄せている男と一緒に暮らすなんて困るでしょう?」
「あ?え!?それは……。ど、どうなんでしょう……?」
同意を求められどう答えていいのかわからなくなる。
ルームシェア相手から告白されるなんて紗良自身初めての事態だった。
「無理だと即答されなかったということは、希望があると思ってよろしいでしょうか?」
静流は秀でた頭脳を生かし、紗良のアホみたいな返答を緻密に分析した。
「あ、の……」
「返事は急かしません。ただ、このままルームシェアを続けていくつもりなら私の気持ちを知っておいて欲しかった」
ラベンダー畑に一際強い風が吹き、静流の決意と紗良の戸惑いを攫っていく。
「そろそろ帰りましょう、紗良さん。飛行機に乗り遅れてしまう」
何事もなかったかのように小道を歩く後ろ姿を、紗良は黙って見つめていた。
しばらく静流の顔がまともに見られそうもない。
北の大地はただの同居人だった二人の関係を大きく変えてしまった。