※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
『例の噂についてはなんとかします』
静流はそう言っていたけれど、どこまで信用すればいいのだろうか。
紗良はいざとなったら仕事を辞めるつもりでいた。目標額にはまだ達しておらず心許ないが、今の時点でカフェの開業に着手できないわけでもない。
しかし、無職になったからという後ろ向きな理由で開業したくないのも事実だった。
(待つしかないのかな……)
紗良は紅茶フロートをもうひとくち口に運んだ。スプーンでグラスの中身をかき混ぜていくとミルクジェラートとアールグレイが混じり合っていく。ヘーゼル色に変わった水面になぜか静流の顔が浮かんだ。
『私は紗良さんが好きなんだと思います』
静流から告白されたことを思い出し、紗良はゴフッとせき込んだ。
北海道から帰ってきてから考えないようにしていたけれど、これから本当に一緒に生活できるの?
ここが家の中でなければ叫び出したい気持ちで一杯だった。
だって到底信じられない。何かの間違いではないのかと、紗良は頭を抱えこんだ。
(あの静流さんだよ……!?)
類まれなスペックを持つ静流がなぜよりにもよって紗良を好きになったのかさっぱりわからなかった。