※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
それは静流が専務と話し合いに出かけた数日後のことだった。
昼休みが始まる三十分ほど前、静流はわざわざ課長のデスクから窓際の席に座る紗良の元へとやってきた。
「三船さん、今日のお昼はどちらでとるつもりですか?」
「お弁当を持ってきているので、テラスにいくつもりですけど……」
食堂にいるとさすがにひと目が気になるので、晴れの日はテラスで食べるようになっていた。それがどうかしたのだろうかと首を傾げる。
「今日は食堂にいてください」
「わかりました」
静流自ら食堂に来るように念を押されるなんて、何かイベントでもあっただろうかとカレンダーをチェックする。確認してみたが特に何もない。紗良はますます首を傾げた。
午前の業務を終えお昼休みに突入すると紗良は木藤と静流の言う通り食堂に向かった。
多くの人でごった返す中、食堂中央の二人掛けのテーブル席をなんとか確保する。
「今日は随分と人が多いですね?」
「全社会議の日だから、皆出社してるのかも」
専務が推し進めている社内改革のひとつとして、一年前リモートワークが導入された。
出社せずとも家で仕事が出来るよう環境が整備されたことで、業務に支障のない範囲で在宅勤務が可能となった。
紗良の所属する営業二課は外出や出張も頻繁に行われるので、あまり活用されていないが週の半分ほどを在宅で仕事をするようになった部署もあるそうだ。
それでも、三ヶ月に一度の全社会議の日は多くの者が出社する。