※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「おはようございます、紗良さん」
「おはようございます」
いつも通りの朝の挨拶。テーブルの上にはケチャップを絡めたソーセージにスクランブルエッグ、こんがり焼けたトースト。
目の前に座る静流の左手の薬指には結婚指輪。なんの変哲もない朝の風景だ。
「そんなにジッと見られていると食べづらいのですが……」
「す、すみません……」
見つめすぎだと指摘され、紗良は謝りながら朝食のプレートへと視線を落とした。
「あ、そうだ紗良さん。今日は不燃物のごみの日なので捨てる物があったら玄関に出しておいてください」
「わかりました」
朝食を食べ終えると静流が出かける前に集めていた紅茶の缶をいくつかゴミ袋に放り込み口を縛って玄関に置いた。
こうしておくと出勤前にマンションの入口にあるゴミ捨て場に捨てに行ってくれるのだ。
「今日は他の課の課長と飲みに行くので夕食は不要です。それでは行ってきます」
「行ってらっしゃい」
食後の紅茶を飲み終えた静流は今日も紗良よりひと足先に出勤して行った。
(いつも通りだな……)
いつも通りすぎて、最早何の感慨もない。
(こう……。少しくらい何かあってもよさそうなものだけど)
ただの同居人から恋人になるには少し時間がかかるのかもしれない。かといっていきなり恋人モードになったらそれはそれで困ってしまうわけだけど……。
(キスしてもらって結構嬉しかったんだけどな……)
あの夜、触れるだけのささやかなキスをもらい、紗良はどこかに飛んでいけそうなほど嬉しかった。
あわよくば同じ思いをしたいと願っているのだけれど、静流が気がつく気配はない。