※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「長年ピアノを弾いていたので余計大きいと感じるのかもしれませんね」
「ピアノ!?うわあ……似合いますね」
「腱鞘炎が年々酷くなって辞めてしまいましたが、今でも遊び程度では弾きますよ」
正装して華麗に鍵盤を叩く姿を想像しただけで胸がきゅんとときめく。
(静流さんって本当になんでもできるよな……)
実は超能力が使えますと言われても容易く信じてしまいそう。
そうして五分ほど手を合わせていると、不意に指同士が絡められていく。静流は紗良の手を握ったまま、己の口元に持って行った。
「あ……」
愛おし気に指先にキスを落とされると、トクンと胸が高鳴った。色気のある流し目が紗良の心臓を正確に打ち抜いた。
ドロリと理性が溶け落ちるような音がした。
「きょ、今日はこのくらいにしておきましょうか!!」
「紗良さん?」
紗良は手を離すと逃げるようにして自室に飛び込み、後ろ手で扉を閉めた。
(あんな……。心臓が持たないよ!!)
手を握っただけでこんなにドキドキするものなの?それとも相手が静流だから?