※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「紗良、お酒のおかわりって冷蔵庫?」
「あ、うん!!すぐに取ってくるね!!」
我に帰った紗良は、チェアから立ち上がり即座に冷蔵庫の元に走った。
(やだ……。何を考えてたんだろう……!!)
ほのかに声を掛けてもらわなかったら、妄想の世界の中で静流とキスをしていた。
(私ってこんなに単純だったっけ……?)
恋愛は懲り懲りとか思っていたくせに、いざ静流に迫られるとあっさり陥落して。挙げ句の果てにあんな妄想まで……。
紗良は煩悩を振り払うように左右に首を振ると、お酒の缶を取り出すべく冷蔵庫の扉を開けた。ところが、事前に冷やしておいたお酒の缶は冷蔵庫の一番上の棚、紗良には手の届かない奥の方に移動されていた。多分、遼の仕業だ。
(ダメ……。踏み台を持ってこないと届かない)
「紗良さん、代わりに取りましょうか?」
「はい、お願いします」
紗良はこれ幸いとグラスを片付けにキッチンにやってきた静流に場所を譲った。
「取るついでに下の段の方に移動しておきますね」
「ありがとうございます」
「これぐらい言ってくれればやりますよ」
紗良は優しく頼もしい恋人の横顔をうっとりと眺めた。形の良い薄い唇につい目がいってしまう。
(ダメ……)
ベランダにはほのかと遼がいるのに紗良は静流にキスして欲しくてたまらなくなった。