※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「たーまーやー!!」
「たーまーやー!!」
ベランダからほのかと遼が花火に向かって、お決まりの掛け声を掛けている。なんて騒がしいのだろう。
あの二人がいるのにキスなんて絶対に無理だと諦めかけたその時、静流にぐいと腰を引き寄せられた。
静流も紗良と同じように、物欲しそうに唇を見つめている。
最後の均衡を保っていた理性の糸がプツリと切れていく。
二人は冷蔵庫の扉の裏に隠れ、貪るようにキスをした。
冷蔵庫の冷気と、えも言われぬ罪悪感がゾワゾワと迫り上がり興奮を煽る。常識を忘れ欲望のまま角度を変えキスに溺れていく。
それはほんの数秒のことだったような気もするし、永遠にも感じられた。
「続きはまた二人きりの時に……」
ゆっくりと離れていく唇に紗良は露骨にがっかりした。
二人きりの時なんていくらでもあるのに、今すぐにでももう一度強引に奪って欲しかった。
茶葉がお湯の中でじわじわと開いていくように、紗良の気持ちもまた静流に花開いていこうとしている。
(こんな気持ち……初めてかもしれない……)