※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
花火の打ち上げがすべて終わり一時間ほどすると、ほのかと遼はのんびりと帰って行った。
(欲求不満なの……かな?)
一通り後片付けを済ませ、紗良は寝る前にキッチンでルイボスティーを飲んでいた。
キスをした後はもう花火を見るどころの話ではなくなってしまい、すっかりうわの空になった。
身体の火照りはまだ治まりそうにない。
シャワーを浴びていた静流がキッチンの前を通りかかり、紗良に声をかけていく。
「まだ起きていたんですか?」
「これを飲んだら寝ます」
紗良は静流に見えるようにカップを掲げた。
「紗良さん、よかったら今夜は私の部屋で寝ませんか?大丈夫。何もしませんから」
突然の誘いに紗良はコクリと小さく頷いた。しかし、何もしないと先に言われて複雑な想いでもある。
「どうぞ」
同じベッドに寝転がりタオルケットに包まると、静流の存在がより近くに感じられた。
瞬きの音が聞こえそうなほど、間近で顔を突き合わせる。
「紗良さん、私に至らない点があったら遠慮なく言ってくださいね」
奇妙なことを言うものだと紗良は不思議に思った。至らない点など今のところ見当たらない。どちらかといえば紗良の方が反省することばかりだ。