※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

(うそ!!今度はバッテリー切れ!?)

 調子に乗って滝壺と紅葉の写真を撮っていたせいなのかもしれない。液晶をいくら押しても紗良のスマホはピクリとも動かなくなった。充電器はレンタカーに置いてあるボストンバッグの中だ。

「すみません。スマホの充電器をお借りしてもよろしいでしょうか……?」
「いいけど、俺のスマホ結構古い機種だから端子が合わないかも」

 月城の言う通りだった。充電器を借りてみたものの、紗良のスマホとは規格が異なり充電はできなかった。

(どうしよう……)

 土産物屋からいなくなってかれこれ三十分は経過している。今頃静流は血眼になって紗良を探しているだろう。

「すみません。近くのサービスエリアに寄ってもらえます?」
「それは構わないけど……ちょっと時間かかるよ?」

 どういう意味だろうと首を傾げると、カーラジオを指さされた。ラジオに耳を澄ませてみると、事故渋滞のニュースがしきりに流れていた。

(ああ、もう!!こんな時に!!)

 なぜこうも悪いことというのは重なるものなのだろう。
 案の定、渋滞に巻き込まれた紗良達はサービスエリアまで三十分以上足止めを食らったのだった。
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