※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

 無事に出社した紗良は二課のフロアに到着するなり月城に遭遇した。

「あ、三船さん。昨日は大丈夫だった?」
「はい、おかげさまで」

 苦労した甲斐もあり月城には静流が一緒だったことはバレていないようでホッとする。
 紗良は課内の休憩スペースにお土産物屋で買った温泉饅頭を置いた。
 課内の端に設けられている休憩スペースには社外からの貰い物のお菓子や、旅先のお土産品がプールされている。休憩を取る際には各々好きな物を勝手に食べていいということになっている。
 当初は会社にお土産を持っていく予定はなかったが、月城と旅先で出くわしたからにはそうもいかない。紗良は急遽静流が買った物を譲ってもらったのだった。

「あれ?もしかして同じ饅頭?」
「本当だ……」

 月城に指摘され紗良は饅頭のパッケージを二度見した。どうやら月城と静流は偶然同じ温泉饅頭を買っていたようだ。示し合わせたように同じ饅頭の箱が二つ並び、まるで月城と旅行に出掛けたみたいだ。
 どうやらそう思ったのは紗良だけではないようだ。

「もしかして三船さんの彼氏って月城さんだったんすか?」
「ち、違うよ!!これはたまたま!!本当にたまたまだから!!」

 温泉饅頭をもらいにやってきた吉住に尋ねられた紗良は慌てて否定した。

「はいはい。三船さんをこれ以上困らせないの。確かに俺と三船さんは同じ饅頭を買ってきたけど本当に偶然だから。ね、三船さん」

 紗良は激しく頷いた。車に同乗して東京まで帰ってきたことは二課の皆には黙ってくれるようだ。
 これ以上ややこしい関係図を作られてたまるものか。
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